2013-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ちいさい秋みつけた

(日経「春秋」2013/9/30付) ふと見上げれば、空が高くなっている。足元に目を落とすと、色づいた木の葉が一枚、二枚と落ちている。どこからか漂う金木犀(キンモクセイ)の香りに驚き、その瞬間に、忘れていた記憶の断片が機械仕掛けのように浮かび上がる…

「流域住所」

(日経「春秋」2013/9/29付) 土地には住所がある。大抵の人は自宅の住所を記憶していることだろう。何県の何市の何町というふうに、大から小へと地名が連なる。もし、お上の定めた線ではなく「川」を軸に大地を区切ったら、どんな地図ができるだろうか。慶…

「震災遺構」の保存はその重要な試みである

(日経「春秋」2013/9/28付) 生涯忘れ得ぬ光景というものが、確かにある。けれど月日は流れ、少しずつ少しずつ復興は進み、あの景色も消えゆこうとする現在だ。悲しみを後世に伝えるにはどうしたらいいか。悲劇を教訓に変えていくには何が必要か。「震災遺…

自制する根性こそ本物だ

(日経「春秋」2013/9/27付) ジャッキー・ロビンソン、人種差別の壁を打ち破ったのは何といってもロビンソンの功績だ。その背番号42は大リーグの全球団に共通の永久欠番となっている。彼が大リーグにデビューして50周年にあたる1997年4月15日からのことだ…

擬音語・擬態語

(日経「春秋」2013/9/26付) 向田邦子が短編「だらだら坂」で、登場する女性の泣き顔を形容して書いている。「小さなドブから水が溢(あふ)れるように、ジワジワビショビショと涙が溢れた」。擬音語・擬態語のたぐいは厄介である。手垢(てあか)がついた…

「ノーヒストリー!」「ノーフューチャー!」

(日経「春秋」2013/9/25付) 落ちぶれ古豪クラブと新興有力クラブのサポーターの野次。「ノーヒストリー(歴史なしだろが)!」「ノーフューチャー(未来なしだろが)!」。古豪クラブがヨーロッパと二重写しになる。古豪は二度の大戦に疲れ果てていた。そ…

持続可能な未来を考えよう

(日経「春秋」2013/9/24付) 「まさか」「なんとガンコな」。1995年5月31日、青島幸男東京都知事が翌年開催予定の世界都市博覧会を中止すると宣言したとき、世の中はたいへんな驚きに包まれた。あれから18年。会場になるはずだった東京臨海部が久々に熱い…

「ネット断食」なる試み

(日経「春秋」2013/9/23付) 当時、アパートや下宿の部屋に電話を引いている学生など一人もいなかった――。それでも大して不便は感じなかった。直接相手を訪ねて、不在ならメモを残せばこと足りた……。前触れなく友人と部屋を行き来することはよくあったし、…

「丸の内朝飯会」が設立50周年を迎えた

(日経「春秋」2013/9/22付) 「蕎麦(そば)、饂飩(うどん)、麺麭(パン)」、内田百間は「朝の御飯は憚(はばか)りに行く手順に過ぎない」と。ウーン、これでは朝食が心太(ところてん)を突く棒のように思えて味気ない。ロシア語通訳だった米原万里さ…

遊びの数々が勝負師の勘を

(日経「春秋」2013/9/21付) 「イチローは絶対に獲得しろ」。おととい亡くなった任天堂の前社長、山内溥さんは株主として米マリナーズに迫った。狙いは当たり、米国でのイチロー人気は沸騰。「ソフト屋」であることを誇った。ゲーム作家も野球選手も棋士も…

シリアは、せっけんが名産、席巻?

(日経「春秋」2013/9/20付) せっけんは安土桃山時代に、南蛮人によって日本にもたらされたという。「しゃぼん」と呼ばれ、その名前が登場する最も古い記録とされるのが石田三成の書状だ。今では暮らしに浸透したせっけん、実は発祥の地はメソポタミア地方…

「鉄道忌避伝説の謎」

(日経「春秋」2013/9/19付) 全国に鉄道が延びていく明治の昔、線路敷設や駅の設置を拒んだ町が多かったという話をよく聞く。宿場がさびれる、若者が都会に出ていく、煤煙で桑が枯れる・・・など、そんな指摘だ。ところが青木栄一著「鉄道忌避伝説の謎」に…

津波避難に警鐘鳴らす判決

(日経「社説」2013/9/18付) 非常時に、幼い子どもや高齢者をどのように避難誘導すればいいのか。2011年、東日本大震災の大津波で、宮城県石巻市の私立日和幼稚園の園児5人が死亡した。高台にあった幼稚園は被害を免れたが、園側が地震の直後に園児を自宅…

思えば「はず」が外れてばかりなのだ

(日経「春秋」2013/9/17付) こんなはずじゃなかった……。思えば「はず」が外れてばかりなのだが、もともとこの言葉は弓術から来ている。これがきちんと合うから矢が勢いよく飛ぶ。そこで「はず」といえば物事の道理の意味になり、○○のはず、などと言うよう…

「世間より一歩先に進む」

(日経「春秋」2013/9/16付) 丸穴車、角穴車、二番車、三番車、四番車……。何のことかというと、手巻き式の腕時計に使われている歯車の名だ。ちょうど100年前の大正2年に現在のセイコーホールディングスが発売した国産初の腕時計も、これら数ミリの部品の数…

醜いことはずばり「ミタクナイ」

(日経「春秋」2013/9/15付) 今年の流行語大賞は「じぇじぇ」で決まり? などと小欄では4月末に早々とこの言葉を紹介させてもらった。北三陸の、限られた地域での言葉だというがこの語感はたしかに耳に残る。方言の豊かさ、奥深さはなにも「じぇじぇ」だけ…

「55」は高い、いささか理不尽な壁だった。

(日経「春秋」2013/9/14付) シンザンが3冠を取った年に、その年、1964年(昭和39年)はスポーツの当たり年だった。もちろん東京オリンピックがあった。そして王貞治氏が55本のシーズン最多本塁打を記録した年でもあった。それから49年、ヤクルトのバレンテ…

人間に痛めつけられた自然は、ときに激越な反応を見せる

(日経「春秋」2013/9/13付) 北原ミレイさんの「石狩挽歌」、「海猫(ごめ)が鳴くからニシンが来ると〜〜」。「あれからニシンはどこへ行ったやら……」。魚群は消え、漁師たちも散った。明治の最盛期に小樽、留萌などの水揚げは合わせて97万トンを超えてい…

シリアの危機打開へこの機を逃すな

(日経「社説」2013/9/12付) 米国によるシリアへの軍事介入が回避される可能性が出てきた。オバマ米大統領は国民向けの演説で、シリアの化学兵器を国際監視下に置いて廃棄するというロシアの提案を評価し、外交努力を優先する方針を表明した。米ロの歩み寄…

「雄弁は銀、沈黙は金」

(日経「春秋」2013/9/11付) かつて英国では公文書を赤いひもでくくっていたので、それを「レッド・テープ」と、所謂、杓子定規な「お役所仕事」を意味する。19世紀の英国を代表する言論人、カーライルが広めたとされる。この言葉を思い浮かべたのは、ふと…

柔らかい和の精神が輝く好機が2020年に来る

(日経「春秋」2013/9/10付) 外国人が日本について語るとき、わたしたちには意外な面をほめることがある。米国人の旅行客が「包む・並べる」という文化に感心していた。7年後の東京五輪で、日本はどんな素顔を世界に伝えられるだろう。高度な巨大技術の象…

女性の活躍には男性が変わらねば

(日経「社説」2013/8/22付) 安倍晋三首相は成長戦略の柱の一つとして、「女性の活躍」をあげた。少子高齢化が進み労働力人口の減少が懸念される日本で、経済・社会に活力をもたらすには、女性の社会進出をもっと促すことが欠かせない。その認識は正しいが…

五輪の歴史の重い一コマ

(日経「春秋」2013/9/8付) その作品を「空前絶後の出来だと思う」と映画監督の篠田正浩さん。1936年のベルリン五輪の記録映画「オリンピア」。ドイツ人女性レニ・リーフェンシュタールが監督してつくられた。その彼女が101歳で死に、きょうで10年になる。…

分厚いトロを焼いて醤油をかけて食えば飯が飛んで入る

(日経「春秋」2013/9/7付) マグロなんて下手物(げてもの)だ――。北大路魯山人が言い放っている。当時は世間にもそんな感覚が残っていたのかもしれない。たしかにマグロは江戸時代にはあまりよい扱いは受けず、とりわけ脂身は嫌われた。しかし一度覚えれば…

自然はいつも人に優しいわけではない

(日経「春秋」2013/9/6付) 東京から名古屋に転勤した男、地元の人間になりきれるか試した。言葉は完璧であったが、地下街があるのに地上を歩いたため、ばれてしまった。「東京の人は地下街が嫌いだで」。清水義範氏のユーモア小説「蕎麦ときしめん」の一こ…

時代の勢いが、司法を動かした

(日経「春秋」2013/9/5付) 60年前の秋、米国の第14代連邦最高裁長官にアール・ウォーレンが就任した。アイゼンハワーは、ウォーレンが保守的な人物だから冒険はしまいと、信じて大統領は彼を指名したという。しかし、その「期待」は大きくはずれ、人種差別…

皇室を無用の対立に巻き込むことになる

(日経「春秋」2013/9/4付) 皇室を政治に利用してはいけないという一線である。高円宮妃久子さまが7日の国際オリンピック委員会(IOC)総会に出席し挨拶されるという。演壇に久子さまが立てば何を話されようと東京のPRになる。皇室に政治活動はできな…

紙の上であっても実際に絵を動かしてみて初めて人物に血が通う

(日経「春秋」2013/9/3付) 「飛ばない豚は、ただの豚だ」。「紅の豚」、主人公が操縦する赤い飛行艇が後にプラモデルにもなった。発売元のファインモールドの鈴木邦宏社長は、宮崎氏の許可を得ようと初めて訪ねた時のことが今も鮮明だ。「実際に空を飛べる…

電話というものには互いの息遣いまで伝えてくれる力がある

(日経「春秋」2013/9/2付) 「五線紙にのりさうだなと聞いてゐる遠い電話に弾むきみの声」。小野茂樹が残した一首。受話器から恋人の声が音楽になって流れ、耳をくすぐる。自身の甘酸っぱい記憶がよみがえる人もおられよう。こういう相聞歌が生まれるほどに…

忘れないだけでなく、理解を深めるための試みを

(日経「春秋」2013/9/1付) あす月曜日の朝、おそらく多くの人たちが「あの瞬間」の自分を思い起こすことになるだろう。「あまちゃん」の中の時計が、東日本大震災の起こった2011年3月11日午後2時46分を迎えそうなのだ。ツイッターでは、きのう放送の予告…