2013-12-01から1ヶ月間の記事一覧

誰にも改まるものがある。年の終わりのありがたさ

(日経「春秋」2013/12/31付) 「海辺のきたない宿屋、逃避した大みそかである。窓から暗い海を見れば、漁船の灯が点々、小さい灯台が間遠に光をまわしていて、わびしさこの上もない」(幸田文)。一年をまたとにもかくにも生きてきて、最後の日、人はなにが…

昔はよかった

(日経「春秋」2013/12/30付) 東京駅、先週末に始まった帰省や出国のラッシュは、きょうあたりまで続くらしい。とりわけ混むのが弁当売り場だ。帰省に限らず、こうした駅弁の空き箱を、皆どうしているだろうか。今は大半がホームなどのゴミ箱に捨てている。…

「青天白日満地紅旗」

(日経「春秋」2013/12/29付) 易幟(えきし)、日本と中国の近代史を語る際は、ただ一つの出来事を指す。1928年12月29日。85年前の、きょうのことだ。張学良将軍が、それまでと違う「青天白日満地紅旗」を掲げた事件。青天白日旗とも略称されるこの旗は、全…

ナショナリズムはしばしば暴走する

(日経「春秋」2013/12/28付) 奴隷の平和より王者の戦争を!亀井勝一郎、昭和16年12月8日の日米開戦に発奮し、雑誌「文学界」の企画「近代の超克」のなかでこう呼びかけた。高村光太郎は「記憶せよ、十二月八日」なる詩を書いている。明治維新このかた、な…

「政治というのは、美学ではない。徹頭徹尾、実学である」

(日経「春秋」2013/12/27付) 首相の靖国神社参拝、「国の最高の立場にある人の言動と個人の信条とは、あくまで分けて考えなければならない」と後藤田正晴元官房長官。首相の発言は日本という国の発言、示された意志は日本の意志とみなされるから、だろう。…

せわしい時間から解き放たれる年末年始に、深呼吸して考えたい

(日経)「春秋」2013/12/26付) 米軍機に追いかけられた。太平洋戦争の時代に育った親、学校からの帰り道、グラマン戦闘機が1機目の前に迫ってきた。機銃掃射が怖かった。身を伏せ死を覚悟した瞬間、頭上すれすれを飛んで去っていった。そのとき操縦席にち…

女性の活躍できる環境は

(日経「春秋」2013/12/25付) 「女性は男性より将棋が弱い」という事実。男女の力の差は厳然として存在する。いま女性で一番強いといわれる里見香奈さん(21)は一方で女流棋士として活躍し、一方では奨励会という名の棋士養成機関でプロの卵の少年にまじっ…

さて時代はどこへ向かうのか

(日経「春秋」2013/12/24付) 「きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ――」。山下達郎さんの「クリスマス・イブ」だ。発売されたのは1983年、ちょうど30年前である。リリースしても、しばらくはあまり注目されなかったという。それが88年にJR東…

「地方にこもる若者たち」

(日経「春秋」2013/12/23付) どこまで行っても、新しい店が現れる。流通業大手が先週末に開いたショッピングモールを歩いてみた感想だ。こうしたモールの多くは地方の郊外か田園地帯に多い。その存在が若い世代の地方志向に拍車をかけていると分析するのは…

「マー君神の子不思議な子」

(日経「春秋」2013/12/22付) サイ・ヤングの箴言(しんげん)が残る。「詩人と同様、投手とはつくられるものではなく、生まれてくるものである」。大リーグのあるコーチは「12人の投手がいれば、12種類の言語をしゃべらねばならない」と言ったそうだ。時代…

大事なのは名前ではなく、その人が仕事に臨む姿勢だろう。

(日経「春秋」2013/12/21付) 師走の「師」は、お坊さんのことだと習った記憶がある。師と呼ばれるのは、知識や経験を積み、人々に語りかけ、導くような職業だろう。医師、教師、牧師、占師、漫才師……。医療や宗教、芸能などの分野に多いようだ。いまは看護…

猪瀬氏、初心に帰り汚名払拭に挑んでほしい

(日経「春秋」2013/12/20付) 晩年の森鴎外が天皇の諡(おくりな)や元号に関する考証に精力を傾けたのはなぜか。「天皇の影法師」という本には、知的な興奮を。西武鉄道グループの研究。日本道路公団など政府系法人の解析。東京都の副知事だった頃、福島第…

これほどに野党がだらしなかったことは最近記憶にない

(日経「春秋」2013/12/19付) ことし活躍した「野党」と聞かれてピンとくること。「アッキー」の「家庭内野党」、もう一人、反原発を唱える小泉純一郎元首相だろう。その次、がもうない。政治の1年を振り返ると、これほどに野党がだらしなかったことは最近…

「考えてはいけないんだ。思考停止。楽だぞ、思考停止」

(日経「春秋」2013/12/18付) かつて北朝鮮への「帰国事業」で半島へ渡った兄が、病気治療のため日本に戻ってくる。昨年の映画「かぞくのくに」である。兄は言う「考えてはいけないんだ。思考停止。楽だぞ、思考停止」。在日コリアン2世のヤン・ヨンヒ監督…

教育訓練費は1990年代に入って低下傾向に

(日経「春秋」2013/12/17付) 日立製作所は従業員教育を早くから始めた会社の一つ、日立村に、鋳物づくりや製図などを教える「徒弟養成所」を設けた。徒弟養成所は2年目以降も生徒を増やし、製品がなかなか売れないなかでも寄宿舎まで建てて教育に力を入れ…

店先から会話が消えたことも、お年寄りの孤立感を深めた

(日経「春秋」2013/12/16付) 「高齢者の万引き犯が増加中」。本紙社会面に、そんな小さなコラムが載ったのは20年前のことだ。直近の統計では高齢者が万引き犯に占める比率は3割を超えた。4年前になるが、警視庁が取り調べ担当者を通じて万引き犯1000人余…

田舎の中学校長のような顔

(日経「春秋」2013/12/15付) 「田舎の中学校の校長先生のような顔」、先ごろ死去した辻井喬(堤清二)さん、実直で清廉で頑固、政治家・伊東正義が生まれて100年目がきょうにあたる。大物候補が軒並み金銭スキャンダルにまみれた1989年、金にきれいなこの…

国民が求める政策は何か、読み取る力は十分だろうか

(日経「春秋」2013/12/14付) 「シンガポールのハマコーさん」と名乗る人物に出会った。亡くなった政治家の浜田幸一さんとそっくりの顔と背格好をしている。笑って握手して、「ジミントー、ナンバーワン!」。どちらかというと大衆的な店だが、勧められるま…

「上野東京ライン」

(日経「春秋」2013/12/13付) 忘年会のカラオケで、今宵(こよい)も名曲「あゝ上野駅」を歌うおじさんがいるだろう。ならばと部下が選ぶのは「木綿のハンカチーフ」か。上野と東京。この2つのターミナルは昭和歌謡の時代が遠く過ぎてもそれぞれの雰囲気を…

レーニンの銅像が8日、デモ隊の手で引き倒された

(日経「春秋」2013/12/12付) ウクライナの首都キエフの中心部に立っていたレーニンの銅像が8日、デモ隊の手で引き倒された。ニュース映像を初めて目にした時は意外な気がした。「まだ残っていたのか」。世界を見わたすと、レーニン像は今も結構残っている…

ーツの襟に汗がぽとぽと落ちて染みをつくる様子

(日経「春秋」2013/12/11付) テレビの画面、かつてのアナログ放送は、この走査線の数が525本だった。それがデジタル化で1125本と倍増し、画質のきめ細かさは旧時代の比ではなくなった。だから昔なら見えなかったものだって見えてしまう。猪瀬直樹知事はテ…

無用の惰性かくもしぶとい

(日経「春秋」2013/12/10付) 子どもの発育状態を知るために学校で測るデータが3つある。身長と体重はすぐ思いつく。もう一つが座高である。でも、いったい座高と発育と何の関係がある。結論をいえば関係はないらしい。関係がないのにどうして、といえば、…

本当の学力とは何だろう

(日経「社説」2013/12/8付) 3年に1度、子どもの学力をめぐる議論が盛り上がる。経済協力開発機構(OECD)による学習到達度調査(PISA)だ。昨年実施された調査には世界65カ国・地域の15歳の生徒約51万人が参加した。日本は読解力と科学的応用力…

女性的と思われてきた資質

(日経「春秋」2013/12/8付) 「男性がもっと女性のような発想で動けば、世界は好ましい方向に変わるだろう」。この意見に賛成か反対か。世界平均では男性の63%、日本人男性だけだと実に79%が賛成という結果になったそうだ。「女性のような」とは共感、親…

理解できないことにはノーと言い続ける

(日経「春秋」2013/12/7付) 人には忘れられない日がある。たとえば1994年4月27日。ネルソン・マンデラ氏はこの日、全人種による総選挙の投票に出かけ、生まれてはじめての投票を「民主主義の正義の圧倒的勝利だ」と振り返っている。12月5日、マンデラ氏…

「日本人の伝統的な食文化」

(日経「春秋」2013/12/6付) テレビドラマ「寺内貫太郎一家」には、いつも朝ご飯の献立が字幕で出てきた。おみおつけ、納豆、切り干し大根、それにゆうべの残りのカレー……。「ゆうべのカレー」なんぞも含めて、こういうメニューこそ昭和の日本人が親しんだ…

「リスクを負う方が健全」

(日経「春秋」2013/12/5付) 「機械工業振興臨時措置法」が制定されたのは1956年のことだ。はじめは国が企業に設備を貸すという構想だったが、設備投資の資金を融資する形に落ち着いた。企業は投資に失敗する危険がある。設備を借りる仕組みの方が安全では…

あらゆる自由のなかで最優先に考えるべき自由は

(日経「春秋」2013/12/4付) たとえば野球の打者がフォームを点検したいとき、どうするのだろう。さいわい、当方にはスイングをチェックしてくれる格好の師がある。英国人ジャーナリストの「理想の新聞」(邦題)という本である。タイムズ紙の編集長もした…

法案を通してしまったことの悔恨は忘れたころにやってくる

(日経「春秋」2013/12/3付) タイムマシンが欲しいよ、「ゴールデンボンバー」がこう叫んでいる曲を聴いた。かの法律が独り歩きしそうな未来が心配で、ちょっと覗(のぞ)いておきたいのだ。特定秘密なるものの範囲が極めて広くあいまいで、お役人がその気…

ガクチカ

(日経「春秋」2013/12/2付) 「ぼくの場合、いいガクチカがないんで弱ってます」。ガクチカとは、「学生時代に力を入れたこと」です。エントリーシートはES、合同説明会はゴウセツというらしい。こういう言い方が出てくる背景には就職活動をパターン化、…