2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

イボニシという巻き貝が、福島第1原発の周辺で姿を消した

(日経「春秋」2013/3/31付) むかしむかし、体のとても大きな男がおった。丘の上にいながら、海のはまぐりを採ることができたほどじゃった。身を食べた後で捨てた貝殻は積もり積もって山のようになった。そこは大櫛の岡と名づけられたそうな――。「常陸国風…

狭い日本、なのに造りだしたら止まらぬ新幹線の魔力

(日経「春秋」2013/3/30付) 「長野行新幹線」という呼び名が、かつてあった。まだ本来の北陸新幹線とは呼びかねるからとJRがひねり出した苦肉の策だ。やがて「長野新幹線」に落ち着いた。それから16年、再来年の春にいよいよ金沢まで延伸・開業するのに…

判決が確定してしまうと選挙事務が混乱するからだと

(日経「春秋」2013/3/29付) ばくちに負けない方法の第一は、やらないことである。もう一つ、やり続けるという方法がある。続けている限り負けは確定しないから、と。そんな愚を思い起こすのは不謹慎だろうか。認知症や知的障害のある人が財産管理などのた…

ほんとうに出会った者に別れはこない

(日経「春秋」2013/3/28付) 東京では4月の入学式には盛りを過ぎてしまうだろう。日本の花といえば桜だというけれど、別れをせかすようなこの花の姿に胸が切なくなることもある。転勤や卒業の季節である。花吹雪の下に流れる涙がある。「あなたの名前を知…

沖縄にとって「4.28」は本土から切り離された日

(日経「春秋」2013/3/27付) 慶良間は那覇市の西約40キロに浮かぶ島々である。世界有数の透明度を誇る海に潜ると、米軍によって豪雨のように降り注がれた焼夷(しょうい)弾の燃え残りがる。米軍が1945年4月1日、沖縄本島に上陸したからだ。だが慶良間で…

「事情判決」

(日経「春秋」2013/3/26付) 「事情」という言葉は古くから使われていたらしい。10世紀の古文書にはすでに用例が見える。幕末には福沢諭吉が「西洋事情」を著し、やがて日常語として誰もが使うようになった。「これには事情が……」などと何かと重宝する語で…

サンテックパワー、飛躍も挫折も再建もダイナミックに進むのかも

(日経「春秋」2013/3/25付) 「イカロスが地におちた」「太陽王がつまずいた」――。中国の太陽電池メーカー、尚徳電力(サンテックパワー)の中核をになってきた子会社が先週、事実上破綻した。同社の創業は2001年。それから10年もたたないうちに出荷量で世…

廃線跡を街の快適さにつなげる

(日経「春秋」2013/3/24付) 東急東横線渋谷駅が16日から地下に移った。人けのない旧駅では早くも解体工事の準備が……。と思いきや、この週末、音楽公演や鉄道模型展などが開催され、にぎわいを見せている。きのう土曜の午前中に行ってみたら、入場に40分を…

「火焔(かえん)太鼓」か、はたまた「井戸の茶碗(ちゃわん)」か

(日経「春秋」2013/3/23付) 「火焔(かえん)太鼓」か、はたまた「井戸の茶碗(ちゃわん)」か。落語の国のおとぎ話を地でいくできごとがニューヨークであったそうだ。ガレージセールで6年前、たまたまのぞいた人が幸運の女神の前髪をつかんだのだろう。…

この国には技術を貪欲に学び取る若者の力がある

(日経「春秋」2013/3/22付) 山梨県の特産といえば甲州ワインが有名だ。醸造技術をこの地に根づかせた人物として、高野正誠、土屋龍憲という2人がフランスへ学びに渡った。高野25歳、土屋19歳のときだった。2人の青年は高名な農学者に師事し、ブドウの栽…

陋巷は消え、無機質な未来が出現する

(日経「春秋」2013/3/21付) 五木寛之さんが「雑然たる渋谷ハチ公前に立つとき、私は強い嫌悪感と、激しい愛着の念を同時におぼえずにはいられない」と。けばけばしい看板、街頭放送の絶叫、クモの巣のごとき電線。時は流れ、人は変わり、渋谷もずいぶんき…

「一丸」とは決意を込めてみせるに都合のいい言葉だ

(日経「春秋」2013/3/20付) 一本か、せいぜい技ありで決まっていたはずなのに、有効だの指導だのが積まれるばかりで畳の外からは甚だ分かりづらい。女子選手への暴力に揺れた全日本柔道連盟の幹部全員の留任が決まったのだという。去年の秋に暴力沙汰の情…

何か新しいことを始める良い機会かも

(日経「春秋」2013/3/19付) 彗星(すいせい)がやって来る。いつ、どこに現れるか分からない。夜空の一点がいきなり輝き始めるのだから、古代人が不吉な兆しと考えたのも無理はない。アリストテレスは「あれは星ではない」と断じたという。パンスターズ彗…

女性が広告塔、手柄が一緒に働く男性のものに

(日経「春秋」2013/3/18付) 女性兵士たちが、写真の中で明るく笑う。横浜市で女性の戦場写真家ゲルダ・タローの作品展が開かれている。主題は戦争の悲劇だが、展示からは「女性と仕事」という隠れたテーマが浮かび上がる。一時は抵抗運動のヒロインとして…

暮らしのまわりの小さきものを見失っていくわれら日本人

(日経「春秋」2013/3/17付) 春のあらしに吹かれ、黄砂や煙霧に驚いているうちに桜の季節がめぐってきた。あちこちで去年よりかなり早くつぼみがほころび、きのうは東京のソメイヨシノにも開花宣言が出た。気象庁の「生物季節観測」では、今年はウグイスの…

太陽系の惑星に「仲間」が生きていた?

(日経「春秋」2013/3/16付) 火星人が円盤で山のなかに降りた。「おーい」と叫ぶと「おーい」とこだまが返ってくる。今度は「火星から来たぞ」と叫ぶ。するとこだまは「ばかにするな。火星に生物なんかいるもんか」とこたえた。75年前、火星人の来襲を伝え…

枢機卿たちは法王を探しに世界の果てまで行ったようだ

(日経「春秋」2013/3/15付) 宇宙はいかに生まれたのか。1951年、時のローマ法王ピウス12世が強烈にビッグバンに肩入れする演説を行った。宇宙誕生の瞬間がある、とすれば創造主、つまり神は存在することになる。法王の説くそんな理屈に波紋が広がった。善…

市になりたがる町が多い

(日経「春秋」2013/3/14付) 時代劇を見ていると村人や町民は出てくるが、市民は登場しない。地名に市が使われ、市民が生まれたのは明治22年(1889年)、この年に東京や大阪、横浜など全国39の地域が市になった。現在、市は800近くに増え、町や村よりも多い…

化粧品に縁なきオジサンにも記憶をよみがえらせる

(日経「春秋」2013/3/13付) 前田美波里さんの小麦色の肌が、子供心にもまぶしかった。「ゆれる、まなざし」、「ナツコの夏」、「君のひとみは10000ボルト」、「ニュアンスしましょ」と惹句(じゃっく)や歌をあれこれ思い出す。みんな資生堂のコマーシャル…

真因が見えてくるまで「なぜ」を繰り返さなくてはなるまい

(日経「春秋」2013/3/12付) 問題が生じたとき、5回の「なぜ」をぶつけてみたことはあるか。「カンバン方式」の生みの親でトヨタ自動車の副社長を務めた大野耐一氏だ。福島第1原子力発電所の事故から2年がたった。メルトダウン(炉心溶融)に至ったのは…

14時46分。また静かに目を閉じてみる。たぶん特別な言葉はいらない。

(日経「春秋」2013/3/11付) 満員の通勤電車の中で、しくしくと泣く声が聞こえた。みんな前をむいたまま、黙って動かなかった。車輪の音と泣き声を除けば、とても静かな車内だった。津波から数日たっていた。遠く離れた東京が、被災地とつながっていた。「…

最近、駆け込みが話題になった

(日経「春秋」2013/3/10付) 中国では今月、にわかに離婚が増えたと伝えられる。不動産バブルを抑えるため住宅売却益に税金をかける、と中国政府が表明したのがきっかけらしい。2戸の持ち家を保有する夫婦がうち1戸を売れば税金をとられるが、離婚でそれ…

一般人が持つ空き部屋に国境を越え無料で泊まりあう

(日経「春秋」2013/3/9付) 若い女性が理想のホテル作りにまい進するNHKの連続テレビ小説が、見る人の間で賛否両論らしい。ところで、世界最大のホテルチェーンはどこか。答えは「普通の人の部屋」だという。一般人が持つ空き部屋に国境を越え無料で泊ま…

北上川よ裏山よ、校舎よ校庭よ、教えてほしい

(日経「春秋」2013/3/8付) 金曜日の午後2時46分。あの激しい揺れが始まったのは、社会のさまざまな場所でさまざまな人が立ち働いている平日の昼下がりだった。運命的な時刻というほかない。その発生時刻ゆえに、東日本大震災は学校を「災害の矢面」に立た…

国政選挙があると決まりごとのように1票の格差裁判が起きる

(日経「春秋」2013/3/7付) 長いたとえにもなれば短いたとえにもなる。100日というのはなんとも微妙である。「百日の説法屁(へ)一つ」、寺社への百日詣、百日紅、「百日天下」か。1票の格差の裁判について、公職選挙法が提訴から100日以内に判決を出すよ…

雀の声を聞かない春に改めて思う

(日経「春秋」2013/3/6付) 雀の子、雀の巣、雀隠れ。みな春の季語である。これが寒雀となると冬の季語にかわる。年中目にするありふれた生き物だから、ということになろうか。ところがいつもいたはずのこの鳥は大きく数を減らしてしまったらしい。三上修さ…

自然はときとして暦を裏切る

(日経「春秋」2013/3/5付) 先週末からの北海道の暴風雪で9人が死亡した。山の中ではなく、普段生活している場でのできごとだ。備えがなかったわけではなかろうが、天気はときに人の考えられる範囲を超えて牙をむく。この冬は寒かった。ほぼ全国で平均気温…

IOCの「勅使」を迎える東京五輪

(日経「春秋」2013/3/4付) 江戸時代の「勅使下向(ちょくしげこう)」という習わしはさまざまな悲喜劇を生んだ。ささいなミスも許されないから、お役目をたまわった大名は疲れ果てることになる。「忠臣蔵」の討ち入り事件も、この饗応問題が発端だったと物…

女性起業家が子連れで働ける共同オフィスがほしい

(日経「春秋」2013/3/3付) 未練の残る彼氏の部屋に、別れ際、自分のピアスを片方、こっそり置いていく。新しい彼女がそれを見つける場面を想像しながら……。菊永英里さん(31)が恋人からもらったピアスをなくし、大げんかしたのは24歳の時。「私のせいじゃ…

花粉症はつらいが、スギに罪はない

(日経「春秋」2013/3/2付) 「壱岐で春に入り最初に吹く南風をいう。この風の吹き通らぬ間は漁夫たちは海上を恐れる」。民俗学者の宮本常一が「俳句歳時記」に寄せた「春一番」の解説である。本格的な春も間近だ。それはそれでうれしいが、目や鼻のむずがゆ…