2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

人は死んでしまうが、死なない人もいるのだ

(日経/春秋/2012/5/31付)一昨日100歳で死去した映画監督の新藤兼人さんには、老いることの意味を教えられ、考えさせられ続けた。「老人の武器は挫折です」。「妄執、欲望、後悔でいら立つばかり。死に近づく恐怖や社会から疎んじられている悔しさが渦巻い…

5月の最終水曜日は「チャレンジデー」

(日経/春秋/2012/5/30付)ごみ拾いに競技の要素を取り入れた「スポーツごみ拾い」というものがる。今日は各地でこのスポーツを楽しむ人がいるだろう。5月の最終水曜日は「チャレンジデー」。人口規模が似た市町村ごとに、スポーツや運動を15分以上した住民…

なぜ毎年首相が代わるのか、私には理解できない

(日経/春秋/2012/5/29付)要人相手のインタビューは呼吸が難しい。聞きたいことは山ほどあるが、与えられた時間は限られている。シンガポールのリー・クアンユー元首相は今年で89歳になる。英国とマレーシアの下を離れて新しい国を築いたのは、約半世紀前で…

この中でいかなる人々によりいかなることが行はれるか

(日経/春秋/2012/5/28付)「これこそ世界有数の大建築」。「しかしこの中でいかなる人々によりいかなることが行はれるかを思へば、われらが心は余り楽しまない」(今和次郎氏)。重厚で威厳、見る人に敬して遠ざける気分が募る。器はともかく、中身である国…

なにやら得体のしれない異物

(日経/春秋/2012/5/27付)「不審な黒い車の目撃情報が出てきたら、事件は解決しない」。警視庁の刑事から、半分冗談として聞いた話である。あやふやな情報に惑わされて、捜査はさらに迷走する。目撃情報は思い込みに左右されやすい。外国人犯罪が話題になっ…

どうすんだ、そんなにトキを増やして

(日経/春秋/2012/5/26付)「空のお祭り3部作」完結編とでも言おうか。金環日食、東京スカイツリー開業に続いて、きのう佐渡島でトキのひなが巣立ちした。おいしい肉目当ての乱獲もあった。住みやすい環境もなくなった。こうしてごくありふれた鳥だったトキ…

本試験は迫っている

(日経/春秋/2012/5/25付)1955年、東京は5年後の夏季五輪招致をめざし、国際オリンピック委員会(IOC)総会に向けてあれこれ策を練っていた。ときのブランデージIOC会長がふらりと日本にやって来たのは、そのさなかである。みんなご機嫌を取り結ぼう…

空耳アワーのような会議はご免である。

(日経/春秋/2012/5/24付) 誰が言ったか知らないが、言われてみれば確かに聞こえる――。タモリさんの番組の「空耳アワー」はもう20年も続く。空耳を誘うのは、ドラマ仕立ての映像の力だろう。ギリシャのパパデモス前首相が「ユーロ離脱が準備されている」と…

酒はのめのめ、のむならば

(日経/春秋)酒はのめのめ、のむならば。福岡に伝わる「黒田節」は、400年以上も昔、母里(もり)友信は、黒田官兵衛・長政親子に仕えた武将だ。ある時、長政の使者として福島正則邸を訪れたところ、正則から酒を勧められた。大盃(たいはい)に注がれた酒…

集まった老若男女がさまざまに声をあげていた

(日経/春秋/2012/5/22付)おおー。やったー。ほほーっ。感動したときに漏らす言葉は、なんと人それぞれなのだろう。きのうの朝、輝けるリングが雲の切れ間にあらわれた瞬間、近所の公園に集まった老若男女がさまざまに声をあげていた。チョーすごい、を連発…

浅草には、あらゆるものが生のままほうりだされている

(日経/春秋/2012/5/21付)「浅草は万人の浅草である。浅草には、あらゆるものが生のままほうりだされている」(川端康成)。後には銀座、新宿、渋谷などに押され、輝きが陰った時期もあった。その元・王者が近ごろ活況にわいている。その浅草で東武鉄道が先…

雲よ、心あらば邪魔するな

(日経/春秋/2012/5/20付)天気図など眺めて、ヤキモキしている人があまたおられよう。あしたは日本の広い地域で金環日食を拝める日なのだ。東京で見られるのは、じつに173年ぶりという。前回観測された1839年は、江戸時代の天保年間だった。大塩平八郎の乱…

ザッカーバーグ、最高経営責任者が議決権の過半を

(日経/春秋/2012/5/19付)大航海時代、英国やオランダに生まれた東インド会社は、欧州をアジアと結びつける大きな役割を果たした。ロンドンで巨利を生むこの貿易会社の株式が人気だった。そうした株への関心につけ込んで、大もうけを狙う人物が現れた。一般…

情熱こそ人間のすべてである

(日経/春秋/2012/5/18付)「情熱こそ人間のすべてである」とフランスの作家バルザックは言った。福島第1原発事故をめぐる調査の進みかたには、そんな思いを強くする。情熱の方向。それは何が起きたか、誰がどんな指示を出しいかなる行動をとったかを暴き出…

すずかけの並木、君と幸福になると信じてた

(日経/春秋/2012/5/17付)都市の街路樹で、世界で最も多いのがプラタナスだそうだ。どちらかといえば無個性な木なのに、小説や歌に登場することが多い。和名はスズカケノキ。「涙とめどなくあふれくる、ひとりすずかけの並木道。君と幸福になると信じてた」…

待っているだけでは地方はじり貧になる

(日経/春秋/2012/5/16付)高知空港、着物姿の尾崎正直知事が後ろに若い女性を乗せ、グレゴリー・ペックさながらスクーターにまたがるポスター。観光キャンペーン「リョーマの休日」。高知は坂本龍馬づくし。弱みを売りにしてPRするのがはやり。「日本で47…

なんくるないさ

(日経/春秋/2012/5/15付)節電の夏を控え、今年も住宅地などで、緑のカーテン、定番は素人にも失敗が少ないゴーヤである。「沖縄生まれ」がずいぶん増えた。かりゆし、チャンプルー、泡盛にも時々お世話になる。沖縄ではいま、衰退する方言を復活させる取り…

植物を愛人と称して生き、ただ愛人を探究

(日経/春秋/2012/5/14付) (貧が逆さま)太郎。ことし生誕150年を迎えた植物学者・牧野富太郎は自らの名をこう記すことがあった。ちゃめっ気と、貧を笑い飛ばすたくましさである。公教育は小学校で2年受けたきり。博士になったが、むしろ学位なしに学位持…

苛政は虎よりも猛し

(日経/春秋)泰山といえば中国・山東省にそびえる道教の聖地、「五岳」のなかでも別格の扱いで「独尊」と呼ばれる。始皇帝からさらに300年ほどもさかのぼった昔。この山の近くを孔子が通りかかったところ、お墓の前で女性が泣いていた。義父と夫と子どもが…

アンコエランやフュミスト

(日経/春秋)アンコエラン(支離滅裂な人々)やフュミスト(冗談好き)たち。19世紀末のパリで、今日まで影響を与えるデザインやアートが次々に生まれた。いま都内で開催中の「陶酔のパリ・モンマルトル」展は、当時のキャバレーの内装を一部再現しポスター…

つばめよ高い空から教えてよ

(日経/春秋)佐渡島のトキのひなが5羽に増えたそうだ。なにしろ国内の野生では36年ぶりの赤ちゃんだから話題にはこと欠かない。大人気のトキに比べると、身の回りの鳥たちはどうしても忘れられがちになる。初夏の風を切るあの伊達(だて)姿(すがた)をあ…

政治というものの力を縮小していって、完全な遊戯にまで追い・・・・

(日経/春秋)「政治というものの力を縮小していって、完全な遊戯にまで追いこんでしまえばいい」と民族学者の梅棹忠夫。司馬遼太郎が応じる。「賛成ですね。やっている本人は血相を変えているけれども、人畜無害の遊戯にすぎないという形、それが理想の政治…

コンプリートガチャ

(日経/春秋)昭和20年代の話。キャラメルの箱に入っていたプロ野球選手カード、監督と選手9人をそろえれば景品がもらえるのだが、出にくいカードもあって、子どもたちはせっせと小遣いをつぎ込んだという。同じような商法は後を絶たず、やがて景品表示法に…

ドイツ流の改革に理があると思いつつ、抵抗するラテン気質を心の中で

(日経/春秋)人々の国民性が最もよく表れる場所は交差点ではないか。車が全く通らず、まわりで誰も見ていなければ、赤信号で横断歩道、ちょっと後ろめたい、みんなで渡れば怖くない、日本人の多くはそんな感覚だろう。ドイツでは、うっかり信号を無視して、…

成人年齢18歳にすべきか

(日経4月30日)「教学相長」に、子どもの日、責任や権利、自覚する好機であると、玉川大学の小松郁夫教授が述べている。同感であります。日本人は、幼いと言われています。権利だけの人間だらけでは、サービスする方は身が持たないです。教育が学問、科学に…

市民から選ばれた陪審員に裁かれる権利がある

(日経/春秋)「ロス疑惑」などの捜査にあたったルイス・イトウさんに、自国の陪審制をどう評価するか尋ねた。苦笑しながらの答えは、「ラスベガスでポーカーをするようなもの」だった。陪審員にどういう人種や立場の人が選ばれるかによって結果が大きく異な…

電力不足で暗闇の中にいる世界の子供に、日本は何ができるだろうか

(日経/春秋)宇宙から国境は見えない。宇宙飛行士の毛利衛さんが語った至言である。国境の代わりに、夜になると、豊かな場所には明るい光があふれるが、貧しい土地は、静かに漆黒の中に沈んでいる。偶然ではあるまい。宇宙から眺めた地上の明暗の風景は、子…

従業員の健康問題はとりわけ重い

(日経/春秋)鉄道医、人命を預かる鉄道会社にとって、従業員の健康問題はとりわけ重い。だから運転士や車掌の心身状態や適性を、独自の視点で見極める医師が必要なのだという。事故は組織にも深刻なダメージを与えるから、こういう取り組みは危機管理の根本…

野球があるかないか。1年にはふたつしか季節がない

(日経/春秋)「野球があるかないか。1年にはふたつしか季節がない」。そんな言葉がアメリカにあるそうだ。松井秀喜選手(37)がレイズと契約した。失業中も異国にとどまり重いバットで黙々と打撃練習を続けてきたのも、この人らしい。背番号は決まっていな…

専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しよう

(日経/春秋)4月26日は歴史的な判決が下った日として後世に伝えられるのではないか。リベリアのチャールズ・テーラー元大統領に対する有罪判決だ。在任中の行為が戦争犯罪とみなされた。1990年代の同国の内戦に際し、隣国の大統領だったテーラー被告は反政…