2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける

(日経「春秋」2013/2/28付) 「人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける」。出会いと別れの季節が、まためぐってきた。平安時代までは「花見」といえば、桜の下で騒ぐのではなく、静かに梅を眺めることだったそうだ。卒業や転勤で慌ただし…

「事態は重大だが深刻ではない」

(日経「春秋」2013/2/27付) 「うちの子は運動神経が鈍い」。日本なら周囲から「水泳かテニスでもさせたら」と忠告されるだろう。イタリア人だと、例えば「よかったね。その子はたぶん、本を読む子に育つわ」というふうに。彼此(ひし)のかくも大きな差、…

時の首相の考えで決まるのがこの賞

(日経「春秋」2013/2/26付) 生前に直接手渡してあげられたらどんなによかっただろうか。昭和の大横綱、大鵬の故納谷幸喜さんに対する国民栄誉賞の表彰式が、きのう首相官邸であった。これまで個人として受けた20人のうち、亡くなった後で受賞が決まったの…

町場の業者がこんなに頑張っている食品は珍しい

(日経「春秋」2013/2/25付) 「カツ丼1丁!」、「パンツ一丁」、カツ丼もパンツも同じ「丁」で数えるとは摩訶(まか)不思議だ。景気づけのために数詞に添える語だと、飯田朝子中央大教授。一丁やってみろ、も同類だ。それとは関係なく使う「丁」もあって…

揺れる大地で暮らすことを折に触れ思い起こす

(日経「春秋」2013/2/24付) 首都の中心にあるマンモス大学が、大地震に襲われたらどうなるだろう。若手芥川賞作家、綿矢りささんの最新作「大地のゲーム」は、未来の日本らしき国を舞台にした小説だ。残った校舎では家を失った学生たちが共同生活を送るた…

「人物写真帖」がはじめて公開されている

(日経「春秋」2013/2/23付) 昭和38年に伊藤博文の千円札が発行された。と、お札を見た新橋だか築地だかの待合の内儀(おかみ)が「まあ、おなつかしい」と言ったという。嘘かほんとか、作家の山口瞳がエッセーにそんな逸話をのこしている。さて、皇居・三…

2つの鉄路の復活が小さな希望の光に

(日経「春秋」2013/2/22付) 広島県の北西部を結ぶJR可部線の可部―三段峡間、乗客の減少で10年前に廃止されたこの区間の一部が、2年後に復活することが決まった。JRの廃線復活は全国初になる。沿線の宅地開発でその後、人口が増えたことが理由だが、地…

新聞が一番面白くなるのは、議会が開かれていない時だ

(日経「春秋」2013/2/21付) 奇妙な決まりがなくなるのはいいことだ。国会同意人事をめぐる「事前報道ルール」を撤廃することで与野党がやっと合意した。人事が報道されると審議はなぜ形骸化するのか。理屈はいまに至るもとんと分からない。当方買いかぶら…

日本を好きになってもらうこと

(日経「春秋」2013/2/20付) 「富士山を国立公園に、瀬戸内海を一大遊覧地帯にして、世界中から外国人客を呼び込めないものか」。日露戦争が終わったころ、木下淑夫という鉄道官僚は、留学先の米国でそんな構想を立てて政府に建白書を送った。諸外国は、日…

柔道や合気道のように、力ではなく技と心を磨いて強くなる

(日経「春秋」2013/2/19付) 大河ドラマ「八重の桜」、主人公を演じる綾瀬はるかさんの魅力に加えて、ご当地、福島県出身の西田敏行さんの熱演、西郷頼母が胸に迫る。会津は薩摩と長州、そして後の明治政府から目の敵にされた。おそらく最大の原因は、幕末…

自国民が飢えようが、極寒に震えようが、まったく意に介さない

(日経「春秋」2013/2/18付) 1990年に福井県美浜町の海岸に打ち上げられ、警察が押収した北朝鮮の小型工作船を見たことがある。安定性よりなにより、とにかくスピードを出せればいい。そんな発想であろう。安普請の船体と大馬力のアンバランスな組み合わせ…

栄華を誇る人類の、その非力をも諭す宇宙の摂理

(日経「春秋」2013/2/17付) 江戸時代の流行や事件事故、災害などを細かく記録した「武江年表」に、ときどき「光り物」が出てくる。たとえば1817年11月22日には「江戸市中雷鳴のごとき響きして、光り物空中を飛ぶ。長い歴史のなかでは隕石は珍しくないのだ…

だまされ続ける人の舌の、なんと無力なことか

(日経「春秋」2013/2/16付) 無茶(むちゃ)な飲み食いを牛飲馬食といい、過酷な肉体労働は牛馬の粉骨と呼ぶ。一緒くたにされがちな牛と馬が、肉になって人の口に入るときはえらい違いになる。先月、冷凍ビーフバーガーに馬肉がみつかったとアイルランド政…

政治家は相場から距離置いて

(日経「社説」2013/2/15付) 安倍晋三内閣が誕生して以来、政府・与党の要人が金融市場に関する発言をすることが増えた。政治家が市場を意識するのは結構だが、相場誘導ととられたり、投機を促したりする可能性がある発言は控えたほうがいい。政治家の発言…

種々雑多な思惑がからまりあう国際舞台の力学

(日経「春秋」2013/2/14付) 古代ギリシャの名家に生まれたアリストクレス少年は、肩幅が広くがっちりした体格の持ち主だった。そこに目をつけた体育教師が授けた愛称が「広い」の意味にちなむ「プラトン」体格どおりの文武両道だったプラトンはレスリング…

およそ人事のざわめきはいずこも同じらしい

(日経「春秋」2013/2/13付) 15世紀の初めというから日本では室町時代、4代将軍足利義持の治世。ヨーロッパではローマ教会が2つに分かれ、南フランスにも法王が立つ異常事態が続いていた。この混乱を収めるために、どの法王も退位して仕切り直すことにな…

福島の復興を加速させよう

(日経「社説」2013/2/10付) 東日本大震災からの復興の司令塔である復興庁が発足して10日で1年がたつ。政府は福島に復興再生総局を設けて、復興庁、環境省、内閣府の現地組織を束ねる体制を整えが、縦割り行政のままでは事業は円滑に進まない。今回、体制…

挑戦者らの秘密基地が日本各地で増殖中だ

(日経「春秋」2013/2/11付) 廃業した元印刷工場。古びた壁に囲まれた空間を、20代、30代らしい人々の熱気が埋めている。先週末、東京都心の目黒駅に近い一角で、ちょっと変わったオフィスの開業祝いがあった。名前は「ハブ・トーキョー」。英国発、世界40…

あの時代の検察は信頼されすぎていたのかもしれない

(日経「春秋」2013/2/10付) 大きな事件には時代が染みついている。リクルート事件の名からは、いまも昭和の終わり、バブル絶頂の匂いを嗅ぎとることができる。平成に入ると竹下内閣が倒れた。元官房長官や中央官庁のトップらが汚職で次々起訴された。リク…

電気のない暮らしをしている人が世界には14億〜15億人

(日経「春秋」2013/2/9付) 電気のない暮らしをしている人が世界には14億〜15億人いるといわれる。そこで太陽光を使ったあかりを普及させようとしているのがパナソニックや三洋電気、屋根に太陽電池を取り付け、電気を起こしてためておき、発光ダイオード(…

「時の娘」が姿を現すのだろうか

(日経「春秋」2013/2/8付) 「真理は時の娘で、権威の娘ではない」。この言葉を書名に生かしたミステリー小説がある。英国の作家ジョセフィン・テイの「時の娘」だ。大ケガをして入院したロンドン警視庁の警部が、ベッドの上で史料をあれこれとひっくり返し…

高度でしたたかな対話力を発揮していかなければ

(日経「春秋」2013/2/7付) 40年以上昔になるが、子どものころ読んだ絵本のなかには、ゴリラを凶暴な野獣として描いているものがまだあった。地道な研究の成果によって、今ではゴリラが知的で心穏やかな動物であることは広く知られている。「ゴリラが胸をた…

小林秀雄は入試に出すな

(日経「春秋」2013/2/6付) 小林秀雄は入試に出すな。丸谷才一が、かつて訴えていた。「彼の文章は飛躍が多く、語の指し示す概念は曖昧で、論理の進行はしばしば乱れがちである。偉大さは認めるけれど、難解なこういう型の文章の出題者は責められなければな…

「団十郎はあれでいいんだよ」

(日経「春秋」2013/2/5付) 江戸は元禄のころの逸話が伝える初代の荒事が豪胆にして少し乱暴なら、亡くなった十二代目団十郎さんは、豪胆は豪胆でも、おおらかさが際立っていた。テクニックより人柄が見える人だった。不器用ともいわれたが、器用などという…

「高校って、生徒がランク付けされる」

(日経「春秋」2013/2/4付) 「高校って、生徒がランク付けされる」、「桐島、部活やめるってよ」のひとこま。運動が得意でカッコよく異性にモテる「目立つ人」たちと、その逆の人たち。自分の位置付けは「クラスに入った瞬間にわかる」から同類で徒党を組む…

何か大事なものが失われる気がする

(日経「春秋」2013/2/3付) 大きな電器店に行けば、カセットテープレコーダーの売り場が見つかる。「お稽古に」と、落語や謡など声を使う習い事や楽器の練習用に、探し求める人がいるそうだ。その規格をオランダのフィリップスが開発したのが1962年。年齢は…

油断するとそんなまっとうな感覚がふっとまひする

(日経「春秋」2013/2/2付) 囲碁の日本棋院が最近、対局中の棋士の携帯電話が2度鳴ったら即負けにする規則を取り入れた。一方、米ロサンゼルスのレストランは入り口で携帯を預けると勘定を5%割り引くサービスを始めた。お客さんの4割が携帯抜きで食事し…

空気が汚染されればどう呼吸すればいいのか

(日経「春秋」2013/2/1付) 「水が汚染されればボトルの水を飲み、粉ミルクが汚染されれば輸入品を使えばいいが、空気が汚染されればどう呼吸すればいいのか」。中国のネット上にこんな書き込みが登場したという。中国の人たちが自衛措置をとらなくてはなら…