2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧

住宅総数に占める空き家の割合は13.5%と

(日経「春秋」2014/7/31付) 「駅15分、3LDK、築浅」。チクアサ、つまり建築年数が浅い物件を指す業界用語が、いつしか客を誘う惹句(じゃっく)になった。戸建てであれマンションであれ、そんな具合に日本人の「新しい家」志向は抜きがたい。その一方…

聡明な学長ばかりならいいが

(日経「社説」2014/7/30付) 通常国会で成立した。現行の学校教育法では、教授会の役割を「重要な事項を審議する」とだけ定めている。改正法ではこれを限定し、教授会は「教育研究に関する重要事項」について学長が決定をする際に意見を述べる機関と位置づ…

土用とは、新しい環境への準備をする機会なのだろう

(日経「春秋」2014/7/29付) 四季のそれぞれ終わりの18日間を土用という。土用という季節と季節の合間は、時の流れに押し流されず、新しい環境への準備をする機会なのだろう。きょうは土用の丑(うし)の日。この日に滋養のあるものを食べる習慣には、困難…

児童虐待が増え続けている。報道のない日がないほどだ。

(日経「春秋」2014/7/28付) 東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中の回顧展でみた画家ヴァロットンの代表作「ボール」だ。この絵をはじめ、独特で多様な表現、どこか謎めいた作品群に引き込まれた。展示ケースに「にんじん」の初版本(1894年)を見つけ…

ジョーは「きのう」の人ではない

(日経「春秋」2014/7/27付) 少し前だが、スポーツのノンフィクションを公募するとボクシングの話ばかりになる、と聞いたことがある。貧しさからの脱出、トレーニングや減量の苦しさ、人の内に潜む本能、かけひき、栄光か負け犬になるかの天と地。あれこれ…

地雷があちこちに埋め込まれた戦場として食料品店を見る

(日経「春秋」2014/7/26付) アイスランドを原産地とするカラフトシシャモがベトナムで加工され、最後は日本の消費者の胃袋に向かう。輸入された冷凍シシャモに殺鼠(さっそ)剤とみられる異物などが混入していたとされる事件は、普段の食生活を支える仕組…

勇ましい言説には仇(あだ)がある

(日経「春秋」2014/7/25付) 「小生今迄(いままで)にて尤(もっと)も嬉(うれ)しきもの、初めて東京へ出発と定まりし時、初めて従軍と定まりし時の二度に候」。明治28年2月、正岡子規は同郷の友人だった五百木(いおき)良三にこんな手紙を出している…

「やっぱり日々の鍛錬よりカネだねえ」?

(日経「春秋」2014/7/24付) 「甲子園にはどうやって行けばいいんで……」。道を尋ねられた人が応じた。「やっぱり日々の鍛錬だねえ」。野球に限らない。スポーツや芸術には、たとえばテニスのウィンブルドンのように、世界に名の通った聖地がある。クラシッ…

バラマキ創生の繰り返しにならない

(日経「春秋」2014/7/23付) いまの広辞苑(第6版)が出たのは2008年だった。「ニート」「ラブラブ」「うざい」などなど約1万語を新たに収録して話題になったのだが、このときに入った言葉のひとつに「創生」がある。バブル期に竹下登首相が「ふるさと創…

1944年のブレトンウッズ会議の合意からきょうで70年になる

(日経「春秋」2014/7/22付) これまで発行された紙幣で一番大きいのはどの国のものか。中国の14世紀、明の時代の「大明通行宝鈔(しょう)」が最大とされる。A4判よりもひと回り大きい。大国意識からか、お金にも存在感を誇示する姿勢が表れているように…

関西人はケチやから、お金を出すなら口も出します

(日経「春秋」2014/7/21付) この日だけ、自分たちのために運行時刻を変えて走らせてほしい。路線バス会社は面食らったに違いない。何百人という集団が移動するらしい。ならば貸し切りバスという手があるはずだが、依頼主の貴婦人は「それではお金がかかる…

「3、4時間戦えますか?」

(日経「春秋」2014/7/20付) 「24時間戦うのはしんどい」。画面には「3、4時間戦えますか?」とのキャッチコピーが映る。「リゲイン エナジードリンク」、リゲインといえば1980年代末のバブル時代、「24時間戦えますか、ビジネスマン」と鼓舞するCMが一…

「命令を果たした」誰かがこの地域のどこかで息を潜めている

(日経「春秋」2014/7/19付) 「命令を果たしただけだ。別のやり方があったかもしれないが……」。1983年9月、サハリン上空で大韓航空機を撃墜した旧ソ連軍機パイロットの言葉である。日本人28人を含め、269人が命を落としたあの悪夢の再来である。親ロシア派…

民法一本槍(やり)はいかにも古い。現実は千差万別だ。

(日経「春秋」2014/7/18付) 詩人の吉野弘さんが「I was born」という詩に残している。受身形。だから子どもは守られなければならない。「女性が結婚中に身ごもった場合、子は夫の子と推定する」という民法の決まりもそう。母親は出産の事実がある…

祭り、疲れやよどみを、非日常の舞台で放電してリセットする

(日経「春秋」2014/7/17付) 笛や太鼓の音が風に乗って届くと、条件反射のように、そわそわした気分になる。見慣れた地元の神社の境内が特別な空間に生まれ変わる。京都では、祇園祭がきょう前半の頂点を迎える。千年以上の歴史のある神事は男が中心である…

代表的なハーブであるラベンダーで意識を失ったりはしない

(日経「春秋」2014/7/16付) 1983年の映画「時をかける少女」、薄暗い実験室。倒れたフラスコの口から流れ出したラベンダーの香りを、主演の原田知世さんが吸って気を失い、倒れ込む。そこから不思議な物語が始まっていく。代表的なハーブであるラベンダー…

謎の芸術家は世界と時間をとらえる斬新な技法を教えてくれた

(日経「春秋」2014/7/15付) 日付は無数の光景でできている。ふだんは忘れている数字を眺め直すと、音や光と一緒に歓(よろこ)びや悲しみも蘇(よみがえ)る。そこには人間の記憶と生きた証しが凝縮している。かつて訪れたフランクフルト現代美術館。年月…

効率を極めた現代の小売業が、商いの原点に戻りつつある

(日経「春秋」2014/7/14付) 夜更けのコンビニエンスストアに常連客が集まり、仲良くお茶会を開く。30年近く前に放映されたテレビドラマ「深夜にようこそ」(山田太一)の印象的な場面だ。コンビニで働き始めた中年の男性店員が、マニュアルに縛られず新風…

父さんの お腹で試す 賞味期限

(日経「春秋」2014/7/13付) 「賞味期限 わたしもチョコも 崖っぷち」。加工食品に賞味期限表示が導入されたのは1995年。本来は「おいしく食べられる期限」なのに、これを過ぎたらもうダメ、みたいに誤認されてもいる。「賞味」なる言葉の曖昧さと、日本人…

お互いが利益を得られるウイン・ウインのつながりを

(日経「春秋」2014/7/12付) ジャワの極楽、ビルマの地獄、死んでも帰れぬニューギニア――。ニューギニア島の戦いは悲惨だった。14万8000人の大兵力のうち、戦後に生還できたのは1万3000人だったという。足かけ1週間に及ぶオセアニア歴訪の最後の訪問国と…

秘密が漏れ信用を失う。

(日経「春秋」2014/7/11付) ベネッセホールディングスが、通信教育などの顧客情報760万件が社外に漏れたと発表した。漏洩は最悪2070万件に上る可能性があるという。あらゆる手段で集めた個人情報は「宝の山」と称されるそうだ。子どもの生年月日を知れば、…

この国は異様な独裁者の統べる王朝との感を深くする

(日経「春秋」2014/7/10付) 人質を取って立てこもるという事件、警察はなだめすかして犯人の説得に努め、多少の差し入れなどもしてやって粘り強くじっくり敵と向き合う。ところが、威嚇のためなのか銃をぶっ放す手合いが少なくない。北朝鮮がきのうまた、…

国民がみずからの目でよその国の豊かさ、人間らしさを確かめる機会を

(日経「春秋」2014/7/9付) 英国では多くのことが駄目だが、していいことはしていい。フランスでは多くのことはしていいが、駄目なものは駄目。米国では駄目なことすらしていいが、ソ連では、していいことすら駄目である――。「民主主義の原則」という名の旧…

人が歩けば足跡が残り人が旅した土地にはエネルギーと魂の跡が宿る

(日経「春秋」2014/7/8付) 小惑星探査機「はやぶさ」が、宇宙の長旅を終えて地球に帰還したのは4年前だった。落下したのはオーストラリアの砂漠地帯。先住民アボリジニの聖地だった。回収作業には部族の長老もヘリで同行した。長老は聖地に被害が出なかっ…

教育の多様性広げる学制改革を進めよ

(日経「社説」2014/7/5付) 6・3・3・4制の見直しによる「平成の学制大改革」を――。安倍晋三首相が昨年の施政方針演説でこう意気込んだわりには、政府の教育再生実行会議がまとめた第5次提言は控えめで、現実的な内容となった。しかし自治体の判断で「…

中国経済はどこへ向かうのか

(日経「春秋」2014/7/6付) 「君子は豹変す(ひょうへん)」は、古代中国の周代にできあがったとされる書が原典になっている。五経の筆頭に挙げられ森羅万象は移り変わるものだと説く易経だ。易経には伝説上の帝王の黄帝や尭(ぎょう)、舜(しゅん)につい…

アーティストが逮捕され、素晴らしい作品までお蔵入りとなる

(日経「春秋」2014/7/5付) 「大人買い」という言葉がある。「悪(あ)しき大人買いだ」と捜査幹部が指摘する話である。かつて若者をむしばんだ薬物汚染が、中高年層へと広がっている。覚醒剤事件で摘発された人のうち40歳以上の割合が増え、昨年は5割を超…

明るい話題を目立たせたところ、会員自身の発言も前向きになった

(日経「春秋」2014/7/4付) ネットを通じて、人の心を操作できるか。そんな狙いともとれる実験をこっそり行っていたとして、米フェイスブックが謝罪に追い込まれた。69万人の会員を対象に、暗い内容の投稿をわざと減らし、明るい話題を目立たせたところ、会…

言動は七変化、規則無視の国である

(日経「春秋」2014/7/3付) 空は暗い灰色でも、そこだけが薄明るい。瑞々(みずみず)しさに目がやすらぐ。淡青から藍、紅紫へと日々、色合いが移ろってゆく。変移の様子から「七変化」とも呼ばれる。「紫陽花(あじさい)や藪(やぶ)を小庭の別座敷」。実…

与党協議は、落としどころを探ることに終始して本質を曖昧にした

(日経「春秋」2014/7/2付) 「ぼくの気持ちの中では、戦争はその後もずっと起こっているんです。自分にも周囲にも」。島尾敏雄がこう語るのを受けて、吉田満が言う。「あの戦争という、日本の歴史、日本人の悲劇、そういう中で大勢死んでいった仲間の、死ん…