ちいさい秋みつけた

(日経「春秋」2013/9/30付) ふと見上げれば、空が高くなっている。足元に目を落とすと、色づいた木の葉が一枚、二枚と落ちている。どこからか漂う金木犀キンモクセイ)の香りに驚き、その瞬間に、忘れていた記憶の断片が機械仕掛けのように浮かび上がる。立ちどまり、己の過去を振り返る季節が秋である。サトウハチローは、「原稿用紙を前に布団に腹這(ば)いになって外を見ていたら、赤くなったハゼの葉を見て、言い知れぬ秋を感じて……」。そうして生まれたのが有名な「ちいさい秋みつけた」という詩だった。おへやは北向き、くもりのガラス。うつろな目の色、とかしたミルク――。元気そうに見える同僚も、淡々と暮らす家族も、それぞれの秋を見つけ、過去と現在を心の中で行き来しているに違いない。人に優しい気持ちで過ごす秋にしたい。
(JN) 「ちいさい秋」、良い季節になってきた。それとともに、目がショボショボし、鼻がムズムズし始めた。楽しい季節であるはずが、辛い時もまた来る「ちいさい花粉症」の時期である。空や足元を見る前に、私は「ちいさい秋」を見つけている。花粉たちよ、もっと優しく秋を教えてくれないものか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60378750Q3A930C1MM8000/