分厚いトロを焼いて醤油をかけて食えば飯が飛んで入る

(日経「春秋」2013/9/7付) マグロなんて下手物(げてもの)だ――。北大路魯山人が言い放っている。当時は世間にもそんな感覚が残っていたのかもしれない。たしかにマグロは江戸時代にはあまりよい扱いは受けず、とりわけ脂身は嫌われた。しかし一度覚えればヤミツキになる美味だ。握りずしの発達と相まって日本人の好物となっていく。魯山人だって「三陸宮古ものがいい」「分厚いトロを焼いて醤油をかけて食えば飯が飛んで入る」などと結局は大した礼賛ぶりである。そういうマグロのなかでも最高級のクロマグロは近年、太平洋でずっと減り続けている。この貴重な資源を守る国際機関の小委員会が、3歳以下の未成魚の漁獲量を来年は15%以上減らすことで合意した。クロマグロは高級魚ではあるが、昨今は意外に身近だ。未成魚が関東でメジ、関西ではヨコワと呼ばれて安く取引され、スーパーでもよくお目にかかる。数年待てば大物に育って産卵もするのに、もったいない話なのだ。魯山人もマグロ随筆に、メジはカツオの味に近いから「話柄(わへい)から除く」などと書いている。
(JN) 日本人の大好きなマグロたちは、日本人人口はもう増加せず需要は伸びないと思いきや、自然の力に任せていていられないほどの取りすぎたようである。マグロの刺身は魚屋で、にぎり寿司は寿司屋で、一般大衆が時々の楽しみであったが、寿司屋チェー店、スーパーマーケットなど大型の店で手ごろな値段での提供となり、非常に身近な生ものになった。それは嬉しいのだが、工場では生産できないこの回遊魚の収穫量をコントロールせざるを得ないのであろうか。しかし、国際機関で漁獲量規制を行っても、すべての国でこれを守って行けるのか。それよりも、この大海原に放射能の影響は大丈夫なのか。それは話柄から除かれるのか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO59411770X00C13A9MM8000/