2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

かえしておくれ今すぐに

(日経/春秋 2012/6/30付)1963年に東京の下町で起きた吉展ちゃん誘拐事件は戦後史に残る出来事だ。警察は脅迫電話の「声」の公開に踏み切る。事件をめぐる国民的関心は沸騰した。クリーニング店などの団体は御用聞きついでの情報収集作戦を展開。東京電力や…

環境に合わない姿に進化してしまった巨大生物は絶滅していった

(日経/春秋 2012/6/29付)ロンサム・ジョージが死んだと聞いて、悲しさよりも、底知れぬ寂しさに襲われた。年齢は推定100歳。ガラパゴス諸島に生き残っていたピンタゾウガメの、おそらく最後の1頭だった。世界中の生物学者が、あの手この手で繁殖に励んだ…

木川田さんが言うなら信頼しましょう

(日経/春秋 2012/6/28付)1970年代初めの石油ショックのとき、燃料費高騰を理由に東京電力が申請した電気料金引き上げの公聴会で消費者団体から、「木川田さんが言うなら信頼しましょう」。東電は思わぬ援軍を得て値上げにこぎ着けた。このときは会長になっ…

この国の議員はお席とお考えの取り合わせがあまりに数奇だ

(日経/春秋 2012/6/27付)オペラの一節がメロディーを少しいじられて世界に広がった。いまの日本では「むすんでひらいて」として知られるミミレドドの遍歴には、冒険譚(たん)のような面白さがある。ヨーロッパからアメリカへ、さらには日本や中国、韓国へ…

外からの力で強引に変えられる前にまず、自分たちで正していかねば

(日経/春秋 2012/6/26付)株主総会がピークを迎えている。警察庁によると、集中日の28日は全国で約900社が開催を予定。10年前は2千社を超えていたから、少しは分散した。かつて株主総会は、いかに短時間で終わらせるかが最優先の課題だった。だから総会を…

どうしたら無辜の命を守れるのだろう

(朝日/天声人語 6月25日付)対テロ戦争の最前線となったアフガニスタンの子どもたち最も怖いことは何ですか? 「爆撃と爆発の音」や「銃を持つ男」を抜いて、「幽霊」というのが一番多かった。それを知った東京のNPOが、子らに「幽霊」の絵を描いてもら…

きょうは林檎忌、美空ひばりさんの命日

(日経/春秋 2012/6/24付)作家などの命日を、6月19日の太宰治の桜桃忌。芥川龍之介は河童(かっぱ)忌(7月24日)、正岡子規は糸瓜(へちま)忌(9月19日)。近年では司馬遼太郎の菜の花忌(2月12日)が知られるようになった。きょうは林檎(りんご)忌…

「まちのこし」「まちいかし」「まちづかい」「まちそだて」

(日経/春秋 2012/6/23付)「まちづくり」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。大がかりな区画整理に、公共施設や道路の新設か。あるいは、地元に根ざした催しの復活や古い建物の再生か。混乱や誤解を避けるためか、市民グループなどで新語を使う例が増えた…

昔から小説や芝居に描かれてきたシーンそのものではないか

(日経/春秋 2012/6/22付) 巨人軍の原辰徳監督は「顔」の人である。ベンチでも感情をありのままに顔に出して遠慮がない。こんなナイスガイも、そのときは顔色を失ったに違いない。「週刊文春」が取り上げ、ご本人も現金の支出を認めている。ゆすられて大金…

120年前の今日、鉄道敷設法が公布された

(日経/春秋 2012/6/21付)120年前の今日、公布された法律に鉄道敷設法がある。今後整備すべき約30の鉄道路線を一括で指定したものだ。これが大正の末ごろに約150路線も一気に増える。政治家の「我田引鉄」の結果だ。この路線のなかには、実現していれば都市…

次の戦争は、誰も乗っていない航空機によって戦われるかもしれない

(日経/春秋 2012/6/20付)ヘンリー・アーノルド元帥は米空軍史上ただ1人の元帥だそうだ。日本本土への無差別爆撃を推進した軍人、世界最強の空軍を育てあげた立役者とされる。そして先見の明があった。米国時間の1945年8月14日、対日戦勝を踏まえアーノル…

勝つためにはまず規律を守る必要

(日経/春秋 2012/6/19付)再選挙で財政再建派が勝って単一通貨ユーロからの離脱の危機がまずは去ったギリシャが、「ユーロ」と呼ばれるサッカー欧州選手権で善戦している。ポルトガル人の監督は試合後に、勝つためにはまず規律を守る必要があった、と語った…

自分と異なる意見の持ち主を前にしたとき、どう応じるか

(日経/春秋 2012/6/18付)自分と異なる意見の持ち主を前にしたとき、どう応じるかそのいずれとも違う「Yes,and…」という発想を、街の再生を手がける山崎亮さんの近著「まちの幸福論」で知った。反対意見もまず肯定し、思いをくみ取り、より良いアイ…

「あり得ない大発見」

(日経/春秋 2012/6/17付)「やっぱり」三分に「がっかり」七分だろうか。ニュートリノが東京・岡山間の距離にあたる730キロをわずか1億分の6秒だけ光より速くすっ飛んだ――。実験装置に不備があったと聞いてはいささか拍子抜けである。生煮えの発表をした…

劇場捜査の大団円

(日経/春秋 2012/6/16付)青酸入りの菓子をばらまく。「かい人21面相」名の犯行声明を次々と送りつける。1984年に起きたグリコ・森永事件。評論家の赤塚行雄さんは、劇場犯罪と呼んだ。犯人の側ではなく、警察が観客である国民を意識し、公開で捜査を進めれ…

経営者は分岐点のサインに気づかなかった

(日経/春秋 2012/6/15付) 青に見えたり、紫に見えたり。アジサイは咲く場所や時期によって、虹のように色が変わる。「ダンスパーティー」という品種がある。開発されたのは18年も前だが、なぜか昨年になって人気が爆発した。はじけるように広がる華やかな…

名月をとってくれろと泣く子かな

(朝日「天声人語」120614)男の子はたいてい乗り物が好きだ。消防車や清掃車、ブルドーザーにフォークリフト。昨夏のこと、中国から北朝鮮に軍用の大型特殊車両4台がこっそり輸出された。春の軍事パレードで「新型弾道ミサイル」を背負った、あの16輪車…

水俣は鏡である

(日経/春秋 2012/6/13付)2月のNHKの番組で原田正純さんは、「あまりにも症状のひどい人がぽこぽこ出たもんで、そこだけをみていって……」。その家族や地域全体への目配りを欠いたことへの反省である。「それが私も含めた医学の大失敗」などと口にすると…

世界で最も虐げられている少数民族の一つ

(日経/春秋 2012/6/12付)国を持たない人々。ミャンマー西部ラカイン州に暮らすイスラム教徒のロヒンギャ族。30年前、ネ・ウィン将軍の独裁体制の下で施行された法律で「国民ではない」と定められたからだ。その数は80万とも100万ともいわれている。ミャン…

大漁旗翻る植樹祭(震災取材ブログ)

(日経@岩手・一関 2012/6/11) 岩手県一関市の山懐で3日の日曜日に「森は海の恋人植樹祭」が開かれた。24年目となるこの植樹祭には1300人が参加した。畠山さんはカキが育つ海の豊かさを守るには、海に流れ込む川、その上流にある森が重要だとして、20年以…

日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも

(日経/春秋 2012/6/10付)この春、東京都内の水族館から逃げ出したものの2カ月ほどで捕まったフンボルトペンギンが、健康を回復して一般公開されたそうだ。「日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも」。塚本邦雄の代表作で、戦後十数年たっ…

悩まず生きるには、多様な考えに触れる本は邪魔だ

(日経/春秋 2012/6/9付)東京・神田駿河台の明治大学で、発禁本の展覧会が始まった。主に戦前、政府に販売を禁じられた本がずらりと並ぶ。労働詩集あり探偵物あり恋愛話あり。読書それ自体が禁じられた社会を描くSF小説が、先日亡くなったレイ・ブラッド…

冤罪(えんざい)はどこに潜んでいるかわからない

(日経/春秋 2012/6/8付)将軍家の食事をつかさどる江戸幕府台所頭、鈴木喜左衛門がある日、切腹を命じられた。家光が鷹(たか)狩りに行った先で出された昼食の吸い物に砂がまじっていたのが理由である。ところが喜左衛門は敢然と抗議する。砂は強風のせい…

造物の妙のひとつに生き物の「擬態」がある

(朝日/「天声人語」/6月7日)造物の妙のひとつに生き物の「擬態(ぎたい)」がある。菊地直子容疑者(40)の逮捕にどこか重なる。人目をかいくぐって17年。「もう逃げなくてもいいと、ほっとしています」。偽名で介護員として働いていた。職場の「女子…

教育システムを柔軟化

(日経/春秋/2012/6/6付)先年亡くなった評論家の加藤周一さんは昭和の初め、小学校を5年で終えて旧制中学に入った。戦前の教育制度では、小学校や中学校の最終学年を飛ばして上に進むことができる「五修」「四修」の特例があったのだ。周囲も才能をどんど…

心配なのは警察の捜査力だ

(日経/春秋/2012/6/5付)警視庁捜査一課長のもとに、ある日封書が届いた。江戸川乱歩の「堀越捜査一課長殿」。銀行の現金1千万円を奪った犯人はアパートに逃げ込むと、別人に変身する。総入れ歯をはずし、頬のふくらみと顎の張りをたちどころにそぎ落とし…

再選挙まで、2週間を切った

(日経/春秋/2012/6/4付)ハルマゲドン(世界最終戦争)という言葉を初めて知ったのは、40年ほど前だった。永井豪さんの漫画「デビルマン」。日本ではその後、ハリウッド映画やオウム真理教の問題などを通じて幅広く知られるようになった。この言葉が現在、…

「一所」懸命とは違う、縛られない働き方へのあこがれ

(日経/春秋/2012/6/3付)モンゴル史研究者の杉山正明さんが著書「遊牧民から見た世界史」で、かつて遊牧民といえば、洋の東西を問わず「野蛮」な存在として否定的に語られるのが普通だった。実は全くのぬれぎぬだと杉山さんは解き明かす。戦わずして味方を…

今日は勝たなくてもいい。よく相手をみておきなさい

(日経/春秋/2012/6/2付)宿敵巨人とまみえた1956年のプロ野球日本シリーズ、三原脩監督は言った。「今日は勝たなくてもいい。よく相手をみておきなさい」。選手をリラックスさせた知将の一言、「最後には勝つ」という目標が裏に隠れていて、しかも聞く者に…

いいニュースと悪いニュースがある

(日経/春秋/2012/6/1付) 「いいニュースと悪いニュースがある」と切り出すジョークは世に数知れず、思わずニヤリとさせられる。グッドニュースとバッドニュースはいつも散らばり入り交じり、なかなか油断ならぬ現代社会だ。「大飯原発、再稼働へ」というニ…