2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

愚作はいじったところでよくなりはしない

(日経「春秋」2013/7/31付) 「詩人ってどこで詩を終わらせるのかどうやって決めるんでしょうね。画家もそうね。いつやめればいいのかなんでわかるのかしら。それがわたしにはわからないのよね」。(「八百万の死にざま」L・ブロック著、田口俊樹訳)。読…

これまでに経験したことのないような大雨

(日経「春秋」2013/7/30付) 「経験」とは存外難しい言葉のようである。日本国語大辞典の「実際に見たり、聞いたり行なったりすること」。、「人間が外界との相互作用の過程を意識化し自分のものとすること」と広辞苑。おととい中国地方を襲った猛烈な雨で…

缶詰を生みだした能力、缶詰意を活かして活躍する能力

(日経「春秋」2013/7/29付) 19世紀のはじめナポレオン政権は、食べ物を長もちさせる方法を懸賞金付きで公募した。ニコラ・アペールは、密封して加熱殺菌するという手法、缶詰の原理を発明した。アペールはもともと優れた料理人で、乾かしたりいぶしたり、…

奇跡的に残った大正時代の邸宅

(日経「春秋」2013/7/28付) 東京・文京区の高台に、奇跡的に残った大正時代の邸宅。その「旧安田楠雄邸」の一般公開が始まって6年がたつ。きのう訪れてみると、盛夏の中でも、庭の木々をくぐり抜けた風でエアコン無しでも十分過ごせる。日本の家とは本来…

変化を恐れぬ姿勢が運を呼び込んだのだろう。

(日経「春秋」2013/7/27付) 「どうせ作るなら、毎日変わる社訓をつくったらどうか」(「清貧と復興 土光敏夫100の言葉」)。50年近く前の話だが、しなやかに自ら変わっていくことの大切さはそのころから既に説かれていた。デジタル化の波に乗ってきた企業…

菅さんに引導を渡せぬ民主党

(日経「春秋」2013/7/26付) 落語の傑作の印象が強いせいか、起請文(誓約書)と聞くとただの紙っ切れと思ってしまう。「三枚起請」である。真の起請文に漂う緊張感はさすがに違う。土佐の西洋砲術家に入門した坂本龍馬らが血判つきで名を連ね、流派の技術…

「1強政治」の地表に、古層がぬうっと顔を出している

(日経「春秋」2013/7/25付) 「つぎつぎになりゆくいきほひ」。丸山真男が唱えたフレーズである。主体的に何かを「する」よりも、自然に次々に「なりゆく」ことを重んじ、その勢いに身を任せる――。それが日本人の思考と歴史の流れを解くカギだという。自民…

「アヌス・ミラビリス」

(日経「春秋」2013/7/24付) ラテン語の「アヌス・ホリビリス」は「ぞっとするようなひどい年」といった意味である。1992年の末、英エリザベス女王は演説でこの言葉に沈んだ思いを託した。王室はチャールズ皇太子とダイアナ妃の不仲をはじめスキャンダルま…

景気回復を願う多くの有権者の味方あっての勝利

(日経「春秋」2013/7/23付) 臥薪嘗胆「がしんしょうたん」難しい四字熟語であるが、よく使われる。我慢、我慢のイメージが共感を呼ぶからかもしれない。参院選までは臥薪嘗胆だ。首相に憲法改正など安倍カラーを発揮してもらうためには参院選にも勝たない…

「何も分らない。分らないが考えなければならぬ」

(日経「春秋」2013/7/22付) 「誠実にして叡知(えいち)ある、愛国の政治家出でよ」。(映画「風立ちぬ」の主人公堀越二郎は昭和20年8月15日、「終戦日誌」)新しい時代に向けた政治家への期待で結んでいる。所沢市の所沢航空発祥記念館に展示されている…

選挙権を持つ者には、あの書き心地を味わう特権がある

(日経「春秋」2013/7/21付) 今日は鉛筆が大活躍する日。スルスルと投票用紙の上を滑るあの気持ちよさは、他の場所ではめったに味わえない。秘密は鉛筆と用紙の両方にありそうだ。芯の種類はちょっと柔らかめの2B。紙はポリプロピレンでできた合成紙であ…

まばゆく輝いていたモーターシティーの悲劇

(日経「春秋」2013/7/20付) 自治体が破綻するとはこういうことか――。北海道夕張市を訪れた人は誰しも、かつて殷賑(いんしん)を極めたこの炭都の苦境を目の当たりにするだろう。財政破綻が明らかになって7年。借金はなお320億円にのぼり、2026年度までの…

あと2日間、候補者の主張に耳を傾けたい

(日経「春秋」2013/7/19付) 巨体のゾウが鳴き声を上げると、その迫力に思わず後ずさりする。ライオンの咆哮(ほうこう)には、風圧すら感じる。体が小さくても大きな声を出す生き物もいる。音量を体積比で競ったら、断トツで1位はセミではないか。音源の…

鯨食がますます廃れていく仕儀だ

(日経「春秋」2013/7/18付) むかしは江戸の海にも鯨がやってきたらしい。寛政10年(1798年)5月、沖合に迷い込んだ大物を漁師らが捕まえ、将軍の上覧に供する大騒動となった。供養のため、のちに塚を築いたという。こういう風習は日本中にあった。苦心し…

「俳優は先がわかってちゃいけない」「千里眼みたいな芝居をするな」

(日経「春秋」2013/7/17付) 勝新太郎は「俳優は先がわかってちゃいけない」と言った。17世勘三郎の「千里眼みたいな芝居をするな」といういましめた。台本を読めばわが身の行く末が知れてしまう。実際にはそんな人間はいやしないのに。知れぬ行く末を思っ…

軽やかに変身する才人たち

(日経「春秋」2013/7/16付) 昭和の初め、作家の林(はやし)不(ふ)忘(ぼう)はニヒルな剣豪「丹下左膳」、同じころ注目されたのが谷譲次で、この人はうんとモダンな「踊る地平線」、同時代には牧(まき)逸(いつ)馬(ま)もいて「浴槽の花嫁」をはじ…

「箱入り息子の恋」では、親の代理見合いが物語を起動する

(日経「春秋」2013/7/15付) 35歳の一人息子。公務員で無遅刻無欠勤の記録を更新中。机の上は常に整頓され、仕事はノーミス。昼食は自宅で母親の手料理。酒は飲まずたばこは吸わない。そして彼女いない歴35年。こんな男の日常で始まる映画「箱入り息子の恋…

仕事熱心で、かつ社会活動にも関心が高い若者たち

(日経「春秋」2013/7/14付) 「本業以外に、2枚目の名刺を持ちませんか」。主に20代、30代の若手社会人に向け、そう呼びかけているNPO法人がある。サイドビジネスの奨励ではない。何かの社会貢献活動に興味があるが、職を辞して、というつもりはない。…

ウソらしきウソはつくとも、誠らしきウソはつくな

(日経「春秋」2013/7/13付) 家来に酒を禁じた豊臣秀吉の前に、曽呂利新左衛門だかが真っ赤な顔をして現れた。「飲んで来たな」「いや、寒いので焚(た)き火にあたって参りました」「ウソをつけ。かいでみるぞ……いや臭い」「さようでしょう。酒樽(さかだ…

「DJポリス」に続き、「お天気ポリス」

(日経「春秋」2013/7/12付) 京都の祇園祭はあさってから3日間が観光客でにぎわう宵山の期間だ。今年は突然襲うゲリラ豪雨の警戒に、京都府警が初めて、気象予報士の資格を持つ警察官をあたらせる。温暖化ガスが増えて地球全体が暖められるなかで、極端な…

「サンダーバード」展示会が、きのうお台場で始まった

(日経「春秋」2013/7/11付) 「はい、パパ」。父親の号令一下、息子たちが人命救助のため飛び出していく。1960年代に放映された英国製SF人形劇「サンダーバード」をテーマにした展示会が、きのう東京・お台場の日本科学未来館で始まった。さっそく訪れる…

東京はやはり、たくさんのものを失ってきたのだ

(日経「春秋」2013/7/10付) 「夏の夕べの涼風は実に帝都随一の名物である」。寺田寅彦は昭和9年に書いた随筆のなかで、東京湾から吹く夕風の心地よさをこう褒めたたえている。そんな都会も近年はヒートアイランド現象に見舞われ、まさしく熱の島、もっと…

「ウィンブルドン現象」の一語は私製の辞書から削除しよう

(日経「春秋」2013/7/9付) 薬に効能と副作用があるように世の中なべて表と裏がある。6年間、38場所も日本出身力士が優勝できていない大相撲は副作用ばかりが目立つ例だろう。ロンドンの金融街シティの繁栄と英国勢の没落。そんな経済現象をテニスの聖地で…

銀座、見た目は新しくとも精神は不変

(日経「春秋」2013/7/8付) 先月末、東京・銀座で最も歴史の古い百貨店、松坂屋銀座店が、建て替えのためいったん店を閉じた。周辺の建物も取り壊し、銀座で最大級の新ビルを建てる計画。隣接する銀行も洋品店もすでに閉店。そうして姿を消す中に築80年以上…

「洛陽紙貴」、トクヴィル『旧体制と大革命』

(日経「春秋」2013/7/7付) 晋の首都・洛陽で、ある時に無名の文人の書いた詩が大評判になった。それを書き写すため人々は争って紙を買い求め、紙の値段が高騰した。この故事から生まれた成語が「洛陽の紙価を高める」、漢文では「洛陽紙貴」と書くらしい。…

いずれは選挙運動の常識を変えるかもしれない

(日経「春秋」2013/7/6付) 満員電車に乗り込みながら、駅の階段を駆け下りながら、スマートフォンを操っている光景、危険極まりない「ながらスマホ」。あの画面のなかの小宇宙に人々はなぜだか魅せられ、吸い込まれてしまうものらしい。かくなる魔力を持つ…

今回の騒擾は革命なのか、反乱なのか

(日経「春秋」2013/7/5付) 「泥いろの水は、まことに聞いていた通りのナイル河で、もし清澄な流でも見つけたら旅人は却(かえ)って失望したかも知れない」。旅人に強烈な印象を与える川は、エジプト人にとっては自国の象徴でもある。古い体制を覆そうとい…

需要が生まれた時には準備ができているようにしておくこと

(日経「春秋」2013/7/4付) GMのアルフレッド・スローンは「事業部制の父」といわれる。事業部に権限を与えて様々な車を開発させ、消費の主役に躍り出た大衆の心をとらえた。「需要が生まれた時には準備ができているようにしておくことが、メーカーの務め…

公務員こそが最良の夫である

(日経「春秋」2013/7/3付) 20世紀の初めにフランスの首相になったクレマンソーが「公務員は図書館の本にちょっと似ている」と言っている。「一番役に立たぬものが一番高いところに置いてあるから」。公務員の配置にも身内には通じる理屈があるのだが、先週…

富士山は日本が世界に誇る平和の象徴

(日経「春秋」2013/7/2付) 富士山は誰のものなのか。静岡県庁にたずねると、8合目から上は神社の富士山本宮浅間大社の敷地なのだそうだ。富士山の山頂部の持ち主の変遷は、争いの歴史である。江戸期の初めまで駿河と甲斐の国が一歩も譲らず、徳川家康の裁…