2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

香港は民主化をめぐって再び大きく揺れている

(日経「春秋」2014/9/30付) ステージではいつも艶(あで)やかだったテレサ・テンさんが、運動会の小学生のような鉢巻き姿で歌ったことがある。私の家は山の向こう……。1989年5月27日。中国の民主化を訴えていた学生らを応援するため、香港で開かれたチャ…

大自然に人間の時間感覚をあてはめたのだから無理な話

(日経「春秋」2014/9/29付) 活火山、休火山、死火山――。むかし学校でこの3分類を教わり、頭にすり込まれた人は多いだろう。御嶽山や箱根山は「死」であった。しかし現在はこういう区分は廃され、過去1万年以内に噴火した山はすべて「活」だ。歴史時代、…

大学中退者7万9千人のうち20%は経済的理由での勉学断念

(日経「春秋」2014/9/28付) 「苦学」という言葉がさかんに使われた時代があった。明治時代より、苦しくとも、そうすればきっと未来は開けると若者たちは夢を膨らませ、勉強した。戦後になってもそういう苦学生はたくさんいて、定時制高校や大学夜間部はよ…

人間の心を大切にする経済学

(日経「春秋」2014/9/27付) この碩学(せきがく)の人、86歳で死去した経済学者の宇沢弘文さんが1983年に文化功労者になり、昭和天皇に招かれて、「ケインズがどうの、だれがどうした」。そのうち自分でもわけが分からなくなってしまったのだという。する…

好調組も環境変化の激しさを考えれば不断の改革が必要だ。

(日経「春秋」2014/9/26付) 米国の詩人サミュエル・ウルマンの「青春」、「青春とは人生のある期間ではなく、心の持ちかたを言う……年を重ねただけで人は老いない……」(作山宗久訳)。彼の住んだ家を記念館にする際は東洋紡の宇野収氏らが寄付を募った。座…

外税を知らずにレジで天仰ぐ

(日経「春秋」2014/9/25付) 「一つ六銭だよ」。仙吉はつまみかけた鮪(まぐろ)のにぎりを元に戻す。ふところには4銭きり。多分これで足りると思ったのが計算違い(志賀直哉の名作「小僧の神様」の有名な場面)。この春の消費税アップにともない外税表示…

企業は女性の力伸ばす職場改革を競え

(日経「社説」2014/9/24付) 男女問わず、意欲と能力のある人が力を発揮しやすい職場をつくる。労働力人口の減少が懸念されるなかで、企業の競争力を高め、社会・経済に活力をもたらすためには、欠かせないテーマだ。すでに自主的に、女性の育成や登用に向…

新しい仕組みのために新しい冤罪が生まれないように

(日経「春秋」2014/9/23付) 03・3581・5599――。このファクス番号は、公正取引委員会の審査局の談合にかかわった企業が「自首」するための専用回線である。不正に加わった企業がみな口をつぐみ続ければ、談合そのものが発覚しないかもしれない。だがこのフ…

井深は早くから「大企業病」の弊害を社内に警告していた

(日経「春秋」2014/9/22付) 復興への意気込みは格別だった。戦後、「人間宣言」した昭和天皇は精力的に被災地や生産現場を訪問して、国民と共に歩む姿勢を示した。昭和37年に天皇が視察したのがソニーの工場だった。世界最小、最軽量のテレビの試作品を見…

そんな「虚しさ」を過激思想は巧みにすくい取っていく

(日経「春秋」2014/9/21付) アメーバのごとく変幻自在、筋金入りのゲリラ組織、。それが版図を急速に拡大して国家を「イスラム国」と名乗る。イラクとシリアにまたがる広大な「国」は何を企て、どこへ向かうのか。そして何よりも戦慄すべきは外国からおびた…

分裂をかけた住民投票も平和のうちに終わった

(日経「春秋」2014/9/20付) 日本人が初めてゴルフをしたのは1896年のことだそうだ。場所はロンドンのロイヤル・ブラックヒース・ゴルフクラブ。「世界で最も古い」という説もある、「1608年設立」のこのゴルフ場を生んだのは2つの王朝が交錯する歴史的な…

もう少し自然界の取り分を増やした方がいい

(日経「春秋」2014/9/19付) 少々まやかしの匂いがする。日本、中国、台湾、韓国がニホンウナギを保護するため、養殖に使う稚魚シラスウナギの量を来年はことしより2割減らすことで合意したというニュースに、そんな感想を持った。ことしのシラスは、日本…

守るべきは捕鯨国のメンツではない

(日経「春秋」2014/9/18付) きょうのおすすめは? 「アジにブリに、それにクジラだね。うまいよ!」。長崎のすし屋で、こんな場面に出くわした。こちらも尾の身のにぎりなど食してみれば、なるほどこれはうまい!聞けばこのあたりではかつて沿岸捕鯨が盛ん…

スコットランド人はどちらの道を選ぶのか

(日経「春秋」2014/9/17付) パスポート、日本国なら漢字で3文字。英字でもJAPANの5文字で簡単だが、やたら小さな活字で長い国の名もある。代表は英国だろう。正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」という。本来はスコットラ…

新型iPhone、24時間で予約400万台超 過去最大

(日経 2014/9/16) 【ニューヨーク=河内真帆】米アップルは15日、最新型スマートフォン(スマホ)「iPhone(アイフォーン)6」と「iPhone6プラス」の予約数が、受け付け開始後24時間で400万台を超えたと発表した。これまでのiPhoneモ…

老人に対し生活の向上に努める意欲を促す

(日経「春秋」2014/9/15付) ややこしい話だが、きょうは「敬老の日」であり、「老人の日」である。歴史ある日を動かすとは何ごとか、などと変更には反対する声が強かった。そこで敬老の日とは別に、9月15日を老人の日として新たに指定する妥協策がとられ…

過去に向けられたる希望は凡て痴である

(日経「春秋」2014/9/14付) 交通網の発達で、いまは遠方でもあまり時間をかけずに旅ができる。しかし時間そのものをさかのぼることは夢物語だ。もし昔に戻れたなら何をするだろう。自分の失敗を消すか、それとも誰かを救うか。若い男が過去のある瞬間に繰…

スコットランドの独立? 金融市場の混乱を招く恐れも

(日経「春秋」2014/9/13付) 猫の命日である。神経衰弱の気晴らしにと書いた文章が大評判になり、小説家・夏目漱石が誕生する。小さな墓標の裏に「この下に稲妻起こる宵あらん」と句を記した。英国留学中も、ひどい心の病に悩んだ。息抜きの旅にも出かけた…

調書とはそれぞれの解釈の結果でもある

(日経「春秋」2014/9/12付) 言葉を会得するということは、自分の周囲にふつふつと沸き立っている無数にして無限の、無秩序な連続体に、言葉で切れ目を入れるということなのです。えたいの知れない素材をさばく包丁に、言葉をたとえればいいか。言葉にうる…

生活コストの上昇を体感する人が増えたのか

(日経「春秋」2014/9/11付) 「これで足りないはずはないでしょう」レジ台に置いた何枚かのお札を前に、高齢の女性が若い店員に抗議する光景を見た。店員がすまなそうに説明した。円安で輸入価格が上がったこと。店頭の価格表示を消費税抜きに変えたこと。…

コーチを信頼していることは映像からも伝わってきた

(日経「春秋」2014/9/10付) 48時間一度も「あのころは」って言わなかったら、好きな店でディナーをおごってもいいよ――。テニスコーチのブラッド・ギルバート氏が書いている。現役としても一流だった彼は、思い出を口にせずにはいられなかったのだ。テニス…

戦争がなかなか途中でやめられぬことを知った

(日経「春秋」2014/9/9付) 11世紀に北宋で完成した「資治通鑑(しじつがん)」は評価が高いもののひとつだと。編さん者の司馬光は、年月の順を追って史実を記す編年体を採った。歴史に学ぼうとしない風潮を憂えた司馬光は、政治はどうあるべきか、事実を示…

1杯の珈琲を求め人が集う交流がドラマを生む

(日経「春秋」2014/9/8付) 江戸の狂歌師、大田蜀山人は月を愛した。本業は幕府の実直な役人だった。大阪の銅座や長崎奉行所にも転勤した。長崎には、英彦山から上る月を詠んだ歌碑も残る。外国船が近海に現れ始めたころで、ロシアの特使レザノフと会見して…

あれもサシミにして食べるのか

(日経「春秋」2014/9/7付) 日本がバブル景気に沸いていたころに、オーストラリアでタクシーに乗ると、こちらが日本人だと気づいたドライバーが「近ごろ日本人がコアラを次々と持ち帰っているようだが、あれもサシミにして食べるのか」。意地の悪いコアラジ…

巨大恐竜、泥沼にはまって絶滅したらしい

(日経「春秋」2014/9/6付) デフォルト騒動に揺れるアルゼンチンを訪ねる機会があった。ブエノスアイレスは緊迫に包まれている……と、そんな光景を想像して身構えていたが、真実はその逆だった。実にのどかな空気である。この国では貪欲な米国のハゲタカ・フ…

民主主義の国だってメディアは危うさをはらんでいる

(日経「春秋」2014/9/5付) そこにいた記者のほとんど全部がウオツカなどで酔っ払っていた。酔い泣きに泣いている者までいた。「プラハの特派員がこの侵入と弾圧はよくない、と打電してきているのに、その正反対を書かねばならないからだ」。1968年の「プラ…

ふたを開けてみると物足りない気分も覚える改造

(日経「春秋」2014/9/4付) 2012年12月26日に発足してから617日。今の憲法の下では最長の記録だという。首相はじめ閣僚たちの努力のたまものか。はたまた、野党があまりにだらしない、というべきか。閣僚の交代というと、見苦しい事情による例が近年は少な…

ヒトの移動活発化は感染症を予想もつかぬ地域へ

(日経「春秋」2014/9/3付) 人類の全歴史を通じ、蚊は偉大な指導者を倒し、軍隊を滅ぼし、国の運命を左右してきた――。「蚊 ウイルスの運び屋」でこう警告している。マラリアや日本脳炎などさまざまな感染症が世界に与えてきたダメージを思えば、決して大げ…

ポーランドはドイツとソ連が一度は潰しにかかった国

(日経「春秋」2014/9/2付) 欧州連合(EU)の多数決は各国が1票ずつを投じるわけではない。最も多いのが独仏伊英4カ国の29票、少ないのはマルタの3票。加盟28カ国をあわせると352票になり、そのうち260票で「可決」というのが一応の決まりだ。ポーラン…

体験の継承ほど大切なものはない

(日経「春秋」2014/9/1付) 関東大震災、すでに大正時代は遠い昔である。それでも惨禍を知る人はたくさん生きていて、新聞やテレビには生々しい体験談があまた登場した。このころまでは、関東大震災はじかに語り継がれていたのだ。しかし歳月は流れ、記憶を…