2014-03-01から1ヶ月間の記事一覧

それやこれやの知的財産権をどう扱うか

(日経「春秋」2014/3/31付) 学校の春休みに、おとぎの国を訪れる家族も多かろう。ミッキーマウス85歳、ドナルドダック79歳、グーフィー81歳。見た目には感じさせないが、ディズニーの人気者も高齢化が進んでいる。映画や小説などを無形の財産と認め、所有…

フランシーヌの場合・・・・・三月三十日の日曜日

(日経「春秋」2014/3/30付) 太った豚よりやせたソクラテスになれ――。1964年3月、東京大学の大河内一男総長は卒業式の告辞でこう述べた、とされる。じつは草稿にあったこの部分を総長は読み飛ばしてしまったのだが、ひとたび報じられると広く社会の関心を…

「それって、免疫力の獲得にかかる時間を長引かせるよ」

(日経「春秋」2014/3/29付) 子を持つ親となって身についた知識に、赤ちゃんは生まれてから半年ほどは病気にかかりにくい、というのがある。しかし、やがて、この親譲りの力は弱まる。自ら鍛えなくてはならない時期が来るわけだ。子供が大人並みの免疫力を…

「これ以上、拘置を続けるのは耐え難いほど正義に反する」

(日経「春秋」2014/3/28付) 「著しく正義に反する」。今回はこれでは意を尽くせない、と静岡地裁で「袴田事件」の再審請求審を担当した裁判長は考えたのだろう。再審開始を認めたうえで、死刑が確定していた袴田巌さんをまずは釈放するよう命じた。いわく…

無沙汰が高じて人を訪ねづらくなることを「敷居が鴨居(かもい)にな

(日経「春秋」2014/3/27付) ビクトル・ユゴーが言っている。「外交官は、自分の本心を漏らす以外のすべての手練を駆使する」。とはいえ、現実には心の中を隠しきれないということだろう。3人並ぶ記者会見の映像に日韓関係のいまが映っていた。オバマ米大…

「先生同志! きょうもクラスに欠席はありません」

(日経「春秋」2014/3/26付) 知りたくもないことを学ぶのは苦痛である。最近、あるハンガリー人に「先生同志! きょうもクラスに欠席はありません」というロシア語だけはいまだに忘れられないんだ、と聞いた。旧ソ連が東欧を牛耳り、ロシア語を義務で教えて…

金融緩和が企業や消費者の気持ちを変え、デフレ脱却へ道筋をつけた

(日経「春秋」2014/3/25付) 太平洋戦争末期の日銀総裁、渋沢敬三は多才な人だった。標本や民具を集めて屋根裏博物館を設けた。民俗、社会、人類、考古といった人文科学の連携を提唱し、私財を投じて数多くの人材も育んだ。学術研究への評価は高い。が、日…

3Dプリンターは奥の深い問題を私たちに投げかけている

(日経「春秋」2014/3/24付) 3D(3次元)プリンターが身近になってきた。創作意欲をかきたてられる人は多いはずだ。個人がものづくりを担う時代がやってきた。印刷博物館の企画展「3Dプリンティングの世界にようこそ!」は、この新技術の可能性を様々…

漢字は有意義なことを学ぶのに使うべき時間を無駄にする

(日経「春秋」2014/3/23付) 1919年(大正8年)、フィンランドが日本に公館を開設した。初代公使とともに未知の国へ向かう17歳の娘に、伊集院彦吉、のちに外相も務めた外交官は、「日本語は難しすぎてお父さんは勉強を放棄する。賭けてもいい」と。3人は…

今よりちょっとだけ気配りし、声をかけてみたい。

(日経「春秋」2014/3/22付) 最近耳にするようになった新しい言葉に「面前DV」がある。父や母が相手を、子どもがいる場で罵り、殴り蹴る。そのとき、大好きなはずの親は鬼の形相を浮かべているだろう。面前DVは子どもの心に、「こういうときは殴っても…

良い研究に必須なのは科学者の良心だ

(日経「春秋」2014/3/21付) 朝永振一郎氏は、理化学研究所に入ったときの印象を「科学者の自由な楽園」というエッセーの中で、こう記している。「おどろいたのは、まことに自由な雰囲気である。実に何もかものびのびとしている」。何よりも研究のテーマ選…

春の日差しの下で自然は華やいでいるのに妙にもの悲しい

(日経「春秋」2014/3/20付) 宇良宇良尓照流春日尓比婆理安我里情悲毛比等里志於母倍婆。万葉集第19巻の最後をかざる1首。東大寺の大仏が開眼した翌年、万葉集の編者とされる大伴家持(やかもち)がよんだ。今から1200年以上も昔のこと。広く知られた歌で…

併合、いや併呑と呼んでよかろう

(日経「春秋」2014/3/19付) プーチン大統領の強力な指導力のもとに進んでいるめざましい経済的、民主的変化の反映である――。サミットでロシアが議長に就くことが決まったのは2002年、カナダの保養地カナナスキスだった。ロシアはその4年後にサンクトペテ…

祖母の早紀江さんは別れぎわに「希望ですよ」と

(日経「春秋」2014/3/18付) 歌人の斎藤茂吉はたいへんなカンシャク持ちで、いつ雷が落ちるかと家族はひやひやしていたらしい。ところが孫のことになると違った。およそカンに障りそうな足音まで「可愛い」とはほほ笑ましい限りだが、孫への愛情とはそうい…

甘く濃厚な風、はるか昔の光景がいきいきと眼前に広がる

(日経「春秋」2014/3/17付) 香りに呼び止められた。夕暮れの街路を見回すと、薄紅の沈丁花が暗がりにぼんやりと浮かぶ。甘く濃厚な風が通り過ぎたとたん、はるか昔の光景がいきいきと眼前に広がる。團伊玖磨さん、円い顔が窓越しに書斎の中をのぞいたので…

主演は消費者であり、企業は良き道具係を目指してはどうか

(日経「春秋」2014/3/16付) 昨年のクリスマスにイチゴの売り上げを前年の3倍に増やしたスーパーがあったそうだ。タネは手描きした1枚の貼り紙だけ。イチゴと生クリーム、柔らかいチョコを使って小さなサンタの人形を作る方法を易しく図解し、売り場に掲…

「科学者が人間であること」

(日経「春秋」2014/3/15付) STAP細胞をめぐる物語はそれでも真実なのか。門外漢は戸惑うばかりである。生命の常識を覆す世紀の大発見を割烹着(かっぽうぎ)姿の30歳の女性が中心になって成し遂げたという筋書きは、ひとまずなかったことにせざるを得…

誕生日を思う

3月14日は私の誕生日である。誕生日は、皆さんからお祝いの言葉をいただき嬉しいが、今日はホワイトデーである。先週、この日のために自分の好きなお店に行き、クッキーを購入して、本日はそれを配った。誕生日になぜお返しを配るのか、と思いながらも交流の…

アベのベア、じゃあない

(日経「春秋」2014/3/13付) その昔、「モガ」や「モボ」が銀座通りを闊歩(かっぽ)していたそうだ。片仮名言葉の2文字をつまんで略語とするやり方は近年めっきり廃れたが、かつてはたまにお目にかかった。「ベア」もそうである。ベースアップを縮めてベ…

土曜日の午後3時36分、福島第1原発の1号機で水素爆発が起きた

(日経「春秋」2014/3/12付) これといったニュースもない金曜日の午後だった。あの揺れはそのとき始まり、ものみな震えだしたのを覚えている。3.11の衝撃は、震源から離れた地域をもまず「体感」として襲ったのだ。けれど3.12の、もうひとつの衝撃には揺れ…

忘れられない。忘れてはいけない。2011年3月11日の14時46分

(日経「春秋」2014/3/11付) 人間はおそらく2つの時間の中で生きている。どんどん流れて先へ先へと進む「時」。秒針に背中を押されて、人は僅かな変化にも新しい価値を探そうとする。古い一枚の写真のように、止まった「時」の価値もある。何年たっても変…

何と命を軽く見たか、「十万人死んだところで東京は潰れない」

(日経「春秋」2014/3/10付) 「やむをえず方針にしたがうことになりました」。昭和20年3月9日、校長先生は子供たちと親を前に、下町の国民学校、卒業生66人を引率、疎開先の宮城県から帰京し、親に引き渡した時の言葉だ。当時としてはぎりぎりの発言かも…

一人前の松林になるまで50年、60年

(日経「春秋」2014/3/9付) 「浜道や砂から松の若みどり」(蝶夢)のような景色が、何年か先、きっとよみがえる。松林をもう一度つくろうという人たちの頑張りに、そんな確信がわいてくる。宮城県名取市では、地元の「再生の会」に非政府組織(NGO)が協…

テロは遠い国で得体の知れない者たちが起こすのではない

(日経「春秋」2014/3/8付) 化学兵器が市民に対して初めて無差別に使われた国は日本である。これこそが、1995年にオウム真理教が引き起こした地下鉄サリン事件であった。教団の元幹部に、きのう東京地裁で判決が言い渡された。オウムの闇に光を当てるような…

ひとはみな見えない仮面をかぶっている

(日経「春秋」2014/3/7付) 天使がふわりと石畳に降り立つと、拍手と歓声が上がった。ベネチアのカーニバルのヤマ場、広場は仮面や中世風の衣装であふれ、ゴンドラが揺らす水面がまぶしく光る。祭りの起源は12世紀の戦勝祝いとか。華やかな仮装で約10万人が…

この改革で中国は安定成長できるのか

(日経「社説」2014/3/6付) 全国人民代表大会(全人代)が開幕し、李克強首相が施政方針演説を行った。今年の実質成長率の目標を前年と同じ7.5%前後とし、構造改革によって安定成長を保つ姿勢を鮮明にした。短期的な景気対策に頼らないで安定成長を維持す…

68年前のきょう、「鉄のカーテン」は冷戦を象徴する言葉となった

(日経「春秋」2014/3/5付) ドイツが降伏して間もない1945年6月。英国の首相チャーチルは下院を解散した。翌月の投票の結果は労働党の圧勝。その結果が米国のトルーマン大統領、ソ連のスターリン共産党書記長とのポツダム会談だったのだけれど、発起人とい…

「いや誤算だったクリミア介入」

(日経「春秋」2014/3/4付) 「いやでござんすペリー来航」。黒船4隻を率いてペリー提督が浦賀沖にやってきた1853年、同じ年でも世界史になると「いや誤算だったクリミア戦争」。欧州列強はクリミアにかかりっきりだったから日本開国で米国の一番乗りを許し…

「爆弾にあたって死傷する者は極めて少ない」といった手引書

(日経「春秋」2014/3/3付) 第2次大戦も末期、終戦の年の3月から軍事施設だけでなく普通の街が火に包まれていく。ある程度予想されたにもかかわらず、農村や郊外へと避難した住民は少なかった。最近出版された「検証防空法」という本で、理由の一端を知っ…

永住帰国した孤児、日本になじめない人が多い。

(日経「春秋」2014/3/2付) きょうは残留孤児の日だという。太平洋戦争の末期、中国から日本へ引き揚げる途中で親と離ればなれになり、現地に取り残された日本人孤児47人が1981年のこの日、肉親捜しのために初めて祖国を訪れた。当時の取材メモ、親戚に一番…