「雄弁は銀、沈黙は金」

(日経「春秋」2013/9/11付) かつて英国では公文書を赤いひもでくくっていたので、それを「レッド・テープ」と、所謂、杓子定規な「お役所仕事」を意味する。19世紀の英国を代表する言論人、カーライルが広めたとされる。この言葉を思い浮かべたのは、ふとしたきっかけ。障害物を感知し自動的にブレーキをかけるシステムを装着した車の保険料は、どれほど安いか。書類に目をこらしたのだが、該当する項目がない。保険会社の怠慢、というよりレッド・テープのせいらしい。米国の大手保険会社は今月、自動ブレーキシステムを装着した車向けに保険料を割引する制度を日本で導入するはずだった。ところが、金融庁の認可が必要だという理由で急きょ取りやめたという。その一方で、国土交通省は来年から、大型トラックや大型バスに対して装着を段階的に義務付けていくことを決めている。国として自動ブレーキシステムにお墨付きを与え、国策として装着を強制しようとしている。なのに国策に沿った商品の登場を、ほかでもない国が妨げている。そんな構図なのだ。カーライルは「雄弁は銀、沈黙は金」という格言も残しているが、ことレッド・テープに関しては、国民の沈黙は厳禁だろう。
(JN) お役所仕事、自分たちの仕事ぶりも反省を持って考えねばならない。何の目的での仕事か、何を守るのか、まずはルールを守ることからとなってしまう。しかし、役所がルールを超えて勝手に判断を下し、暴走しても困るものである。でも、走る前からルールというブレーキを踏んでいては前には進まない。前進させるのは立法を司る者の役目であろう。その立法を司る者を我々は声を出して選ばねばならない。こういうことが起きるのは、我々が碌な者を選び出していないからであろうか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO59562800R10C13A9MM8000/