2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧

日記のなかにはその人にとって生涯の糧となるものが

(日経「春秋」2014/11/30付) 「おれと代るがわるメモしよう。それならつけるか?」。武田泰淳は妻にこう持ちかけ、山荘での暮らしを記録させるようになったという「富士日記」誕生の経緯。この日記で、泰淳没後にもうひとりの作家・武田百合子は出現した。…

地方活性化のかけ声は繰り返されてきたが

(日経「春秋」2014/11/29付) 民俗学者、南方熊楠(みなかたくまぐす)は、博覧強記で「歩く百科事典」と称された碩学(せきがく)は、実にユーモアあふれる人だった。昭和4年、紀伊半島を訪れた昭和天皇に進講した。このとき、熊楠は大きなキャラメルの箱…

学ぶ側の度胸や出会いが人を本物の勉強に向かわせる

(日経「春秋」2014/11/28付) 戦争中、英語を使いたくてたまらない14歳の中学生が、意を決して捕虜収容所を訪ねる。「赤鬼青鬼みたいなやつばかり」の中の小柄で柔和そうな若者がほほ笑んできた。少年は話しかけた。What is your country…

圧勝した後に実現させたのは「0増5減」の弥縫策だけ

(日経「春秋」2014/11/27付) 「面の皮の千枚張り」という言葉がある。政治家のみなさんは面の皮をどれほど張り重ねておられよう。相手が最高裁でもヘッチャラらしいから何千枚か、いや何万枚か。最大4.77倍だった昨年の参院選の格差について、きのう最高裁…

あとから原因を追及しても、当事者が見つからない

(日経「春秋」2014/11/26付) すべてのものに名前があるとは限らない。ビスケットが壊れないように缶の中に入っている並んだ透明な気泡の詰め物には、呼び名がない――。いまではプチプチという名前がおなじみになった。登録商標で一般名は気泡緩衝シート、ぶ…

突然の解散が、さらに時間稼ぎをする口実に

(日経「春秋」2014/11/25付) 零余子(むかご)このコードネームで呼ばれる極秘作戦を、24年前に警視庁が進めていた。狙いは北朝鮮の非合法活動。拉致事件の解明につながるとの期待もあった。作戦は立ち消えになった。ほどなくして国会議員団が北朝鮮を訪問…

本との出合い方をガイドする「次の本へ」(苦楽堂編)

(日経「春秋」2014/11/24付) 「2冊目の本とうまく出合うには、どうしたらいいんだろう」。そんな悩みを抱えている高校生が案外多い。東日本大震災の被災地で、高校生に将来の夢などを取材しているときの雑談からだそうだ。学校の課題図書や朝の読書運動な…

集まった落ち葉一枚一枚に人がまだ解けぬ謎がひそむ

(日経「春秋」2014/11/23付) 海藻や植物プランクトンなどの藻類のレベルに人間がやっと追いついた。太陽光と水と二酸化炭素(CO2)を使って糖などのエネルギーを生み出す光合成の新技術を、東芝が開発したという。4年前にノーベル化学賞を受けた根岸英…

アベノミクスを有権者はどう評価するだろう

(日経「春秋」2014/11/22付) 人間の脳は楽観主義なのだそうだ。過去の幸福な記憶よりも未来に起こることの方を「明るい」と思う人が多かった。脳は未来の幸福な出来事を想像した時に最も活性化するという(クリス・バーディック著「『期待』の科学」)。明…

政治家は慌ただしく全国に散り、一票を懇願し始める

(日経「春秋」2014/11/21付) 中島みゆきさんに「紫の桜」という曲がある。南半球の大陸や南洋の島で咲くジャカランダの樹に、大切な思いを託する心情を歌い上げる。〜忘れてしまえることは忘れてしまえ。忘れきれないものばかり、桜のもとに横たわれ。抱き…

足元の小利に目を奪われ、後の大利を失う

(日経「春秋」2014/11/20付) 目先の違いにとらわれるのを笑う「朝三暮四(ちょうさんぼし)」の故事と違い、我々は、利益が得られるように計算して、合理的に行動する。将来に備えてお金をため、生涯の収入を考えながら使う。目先の収入の増減には、強い影…

われらの健さんが亡くなった

(日経「春秋」2014/11/19付) 高倉健さん、思えばアウトローにぴったりの面差しなのだが、東映ニューフェースで登場しただけに長い回り道をたどった。世の理不尽に耐えに耐えたあげく敵陣に切り込んでいく、というストイシズムを鮮やかに体現できたのはそう…

外遊しているうち解散風は、順風が強くなりすぎ逆風に

(日経「春秋」2014/11/18付) 先週、北京での国際会議から帰国した甘利明経済財政・再生相は、「成田に着いたら景色が変わっていた」と。きのう、足かけ9日に及んだ外遊から戻った安倍晋三首相は、7〜9月期の国内総生産(GDP)が前の期に比べ実質で年…

来月は衆院選だというが、さてその先は……

(日経「春秋」2014/11/17付) 大隈重信、原敬はという意見もあったという。いや聖徳太子には留任してもらわねばと。そんな議論を経て決まったのが福沢諭吉だった一万円札の肖像の話。ちょうど30年前の11月に、福沢諭吉の一万円札は世に現れた。2004年に千円…

保育所の子どもの声に対する近隣からの苦情が

(日経「春秋」2014/11/16付) 季節はずれになるが、「体験談」話では、コツが必要だという。いくつか役に立つアイテムがある。髪の毛、動く影、水の音、黒猫。そのなかで意外だったのが、「子どもの声」だ。真夜中、人けのないところで突然子どもの声を聞け…

授業中の私語は?

(日経「春秋」2014/11/15付) 大学の教壇に立った経験のある会社員や研究者が集まると、共通して話題に出るのは私語の多さだ。学生は、時に遠慮なく私語が飛び交い始める。昔の大学には授業中の私語はほぼなかった。その理由を教育社会学者の竹内洋氏が随筆…

開高は夕暮れになるとローやん片手に

(日経「春秋」2014/11/14付) 美しいスコットランド民謡「ロッホ(湖)・ローモンド」にちなむ「ローモンド」という美しい名のウイスキーが、日本にはあった。なぜか労働組合がつくり、あらかじめ配られた切符で社員だけが買える珍品で、関西の人は「ローや…

あれからあすで2年

(日経「春秋」2014/11/13付) 「ルビーの指環」は、別れた恋人への未練が切々と伝わる名曲だった。そして二年の月日が流れ去り。どうやら別離はまだ2年前のことで、ふと記憶が甦(よみがえ)るのだ。振り返れば一昨年の11月14日、当時の野田佳彦首相は安倍…

共生の道を工夫するのは、人間たちの仕事である

(日経「春秋」2014/11/12付) 「虎狩りの殿様」と呼ばれた尾張徳川家の19代・元侯爵、徳川義親は、戦争を機に殺生はやめたが、もとは熊狩りの殿様だった。尾張家は維新後、藩士救済のために、北海道で農場を経営。周辺の熊を撃っていたことで有名になった。…

修飾語を安直に使ってごまかすな

(日経「春秋」2014/11/11付) 「見出しを考えて記事を書け」。これが普通であろうが、かつて「見出しをつけにくいような原稿を書け」と教える人がいたという。(河谷史夫「記者風伝」)「何事も単純には割り切れるものでなく複雑だから」という理由に、なる…

人が人を差別するのはその対象を恐れるからである

(朝日「天声人語」2014年11月9日) そもそも女性ならではの視点とか男性らしい発想といったものが存在するのか。「戦争と女性」をテーマに女性の識者だけで語りあうパネルディスカッションがあった。「立憲デモクラシーの会」が一昨夜、都内で催した。経済…

企業の発展には論語と算盤

(日経「春秋」2014/11/9付) 増える認知症に新ビジネスや新商品で立ち向かう。製薬会社など医療産業だけではない。高齢者と会話するロボットの開発、宅配便会社の見守りサービスと、さまざまな業界が知恵を絞っている。ある不動産会社は、自社が手がける住…

私は大学者になるか豆腐屋になるか、一生懸命考えた

(日経「春秋」2014/11/8付) 「観光宮崎の父」と呼ばれるのが大正の末にバス会社の宮崎交通を創業した岩切章太郎は、今でいえば「地方創生」。原点は少年時代の、新渡戸稲造との出会いだった。新渡戸が宮崎を講演に訪れ、岩切少年は学校の先生に許しをもら…

「ぼけ」、少し透き通ったピンクは「天使の肌」

(日経「春秋」2014/11/7付) 宝石商の仲間うちでは、淡いピンク色の品を「ぼけ」と呼ぶそうだ。少し透き通ったピンクは、欧州で「天使の肌」にも例えられて珍重される。それなのに「ぼけ」などと、奇妙な名前がついてしまった。極東のはずれの島国で極上の…

オバマ大統領も民主党もそろって「赤点」をとった

(日経「春秋」2014/11/6付) 「中間」という言葉を目にしたり耳にしたりすると、半ば自動的に試験を連想した。「中間選挙」なる言葉になじみ、それが米国の国政レベルの重要な選挙だと理解したのは、ずいぶんたってからだった。受験生のような立場に置かれ…

延命措置、尊厳死、社会はどう格闘したらいいのだろう。

(日経「春秋」2014/11/5付) 古代ギリシャの医師ヒポクラテスが職業倫理を述べた「誓い」のなかに、安楽死にかかわる一節がある。いわく「医師は何人に請われるとも致死薬を与えず。またかかる指導をせず」。ヒポクラテスが生きた時代から、安楽死の是非は…

ガガーリン少佐の初飛行は、「実は賭けに近かった」と

(朝日「天声人語」2014年11月4日(火)) 今もそう言うのだろうか。サッカー少年だった昔、高く浮いて派手に外れたシュートを「宇宙開発」と言ってからかい合った。アポロ宇宙船で人類が月に降り立ったころ、世の中は宇宙づいていた。ケネディ大統領が「月…

天長節、明治節、文化の日

(朝日「天声人語」2014年11月3日(月)) 近代以降、きょうの呼び名は時代で変わった。明治期には天皇誕生日を祝う天長節。昭和の初めから明治節と称され、戦後に文化の日となった。歴史の刻まれた日は「晴れの特異日」としても知られる。「天長節日和」とい…

コスプレ、ストレス発散?

(日経「春秋」2014/11/2付) にぎわうだろうとは聞いていたが、これほどとは――。ハロウィーン当日だった一昨日夜、東京・渋谷を訪れた感想だ。人出は6月のサッカーW杯ブラジル大会の時を超えたという。仮装姿のまま電車で来る猛者もいる。繁華街のトイレ…

想定外の発表があれば、市場関係者の心理に影響を与える

(日経「春秋」2014/11/1付) 逃げ場がなく常識外れの不利な布陣、「背水の陣」のように、経済の分野でも当局が意表を突くことがある。想定外の発表があれば、市場関係者の心理に影響を与える。日本銀行の追加緩和もまさかの決定だった。日経平均株価は大幅…