2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧

身分を隠して相手方の懐に飛び込む

(日経「春秋」2013/5/31付) 「陸軍中野学校」、時代劇スターの市川雷蔵がクールなスパイを演じて話題になり、陸軍がひそかに設けた諜報(ちょうほう)員養成所の存在はこの映画で世に知られるようになった。娯楽作品だから俗受けする場面が多いが、中野学…

この赤ちゃんは、地主か学者か実業家か。

(日経「春秋」2013/5/30付) コルカタ(カルカッタ)がある東部のベンガル地方では、生後6カ月の赤ちゃんに土くれとペン、紙幣をのせたお皿を見せ、一つをつかませようという儀式をするそうだ。地主か学者か実業家か。インドのシン首相の来日、地下鉄、新…

健やかな身体に健やかな魂が願われるべきだ

(日経「春秋」2013/5/29付) 古代ローマの詩人がとなえた「健全な精神は健全な肉体に宿る」。これでは病気がちの人は健やかな心をはぐくむことができない、と解されかねない。もともとは「健やかな身体に健やかな魂が願われるべきだ」といったところらしい…

投票箱に鬼が隠れているわけではない

(日経「春秋」2013/5/28付) 3カ月近く前になる。スイスで憲法改正のための国民投票があった。結果は賛成が68%に達し、かくして憲法に高額報酬の制限が盛り込まれることになった。スイスで国民投票は珍しくない。とはいえ、お国柄の差でもあろうか。それ…

「未来を変えるデザイン展」

(日経「春秋」2013/5/27付) トヨタ、キリン、ヤマハ、富士通、三井物産、こうした大手企業19社による「未来を変えるデザイン展」は、高齢化などが進んだ2030年の日本を見据え、ビジネスを通じ社会課題の解決に取り組む実例を、模型や文章で見せる。辞書で…

使い続ける能面は衰えない

(日経「春秋」2013/5/26付) 美術館のガラスの中に能面が展示されている。重要文化財である。江戸時代の名匠が作った作品らしい。ところどころ塗装がはげ落ち、細かなヒビ割れも見える。これを美しいと呼べるかどうか。能面が朽ちて薄汚れて見えるのは「そ…

「早乙女の下り立つあの田この田かな」

(日経「春秋」2013/5/25付) 東京をすこし離れれば、あちこちで田植えの光景に出あう。現代ではそれも田植え機が大活躍だが、かつてこの作業は、男も女も子どもも年寄りも総出の一大行事だった。早乙女という言葉があるくらいだから、なかでも大きかったの…

「一休み一休み」

(日経「春秋」2013/5/24付) 一休宗純は世界的な有名人だ。テレビアニメ「一休さん」は、アジアを中心に海外でも放映され、子どもたちの心をがっちりつかんだ。その一休さんの口癖の一つが「一休み一休み」だ。勉強やらスポーツやら、親や先生からプレッシ…

日本の時間を2時間早めようというアイデア

(日経「春秋」2013/5/23付) 江戸の庶民は時計など持っていなかったが、市中では時の鐘が鳴るから困らなかったらしい。とはいえ、当時は日の出から日没までを6等分する不定時法を採っていた。一時(いっとき)の長さが昼と夜で、夏と冬で異なるわけだ。定…

自分さえよければ、でなく

(日経「春秋」2013/5/22付) お客が来るからと、饅頭(まんじゅう)を20個買ってくるよう少年が母親から頼まれる。近所の菓子屋には饅頭がちょうど20残っている。しかし、店主に「よかったな。きょうはもうこれきり作らない」と聞かされた少年は、「間違え…

「森永ミルクキャラメル」が発売されてから100年

(日経「春秋」2013/5/21付) 滋養豊富、風味絶佳、「森永ミルクキャラメル」が発売されてから来月10日で100年になる。製造元の森永製菓は関東大震災のとき、被災者の栄養補給にと、ビスケットなどの菓子を6万袋、練乳を1万5千缶、手分けして配った。「女…

井上ひさしは、いかに笑いに心血を注いでいたか

(日経「春秋」2013/5/20付) 苦しみや悲しみは人間が生まれ持っている。でも、笑いは人の内側にないものなので、人が外と関わって作らないと生まれない。井上ひさしはそう言った。希代の戯作者の足跡をたどった「井上ひさし展」が県立神奈川近代文学館で開…

同潤会アパート、解体を控えなお存在感を放つ

(日経「春秋」2013/5/19付) 同潤会アパートに空室はないだろうか。その建築の、昭和モダンの濃密な空気に引かれたのは久世さんだけでなかっただろう。関東大震災の復興事業として、内務省は同潤会なる組織を設けて鉄筋コンクリートの集合住宅を建てた。東…

ソーシャルプロダクツ・アワード

(日経「春秋」2013/5/18付) 今週半ば、東京都内でちょっと変わった視点で選んだ「優秀商品」の表彰式があった。賞の名をソーシャルプロダクツ・アワードという。買ったり使ったりが目先の満足だけでなく、社会を良くすることにもつながる。モノに限らず、…

やみくもな開発を進めれば地球環境を

(日経「春秋」2013/5/17付) ヴァスコ・ダ・ガマはアフリカ大陸の南端を回ってインド洋入りした。マゼランは南米大陸と南極大陸の間を通って太平洋に出た。グローバル化の始まりともいえる大航海時代を切り開いた欧州の人たちは、実はもっと便利なルートの…

不条理と戦うのもまた、道徳心、義務である

(日経「春秋」2013/5/16付) ことし生誕100年を迎えるフランスの作家カミュは、「人間の道徳心や義務について知っている一番確かなことのすべて、それを私はサッカーに教わった」といっている。Jリーグの試合があってから、きのう5月15日がちょうど20周年…

歴史を調べると慰安婦制度がいろんな軍で活用されていた

(日経「春秋」2013/5/15付) それを言っちゃあ、おしまいよ。日本維新の会の橋下徹共同代表の、従軍慰安婦問題をめぐる発言もそうだろう。「歴史を調べると慰安婦制度がいろんな軍で活用されていた」。これは政治家の言ではない。こんなことを言ってのける…

組織全体にごますり体質が広がっていく

(日経「春秋」2013/5/14付) 初対面の仕事の相手を訪ねるとき、約束に何分まで遅れても許されるだろうか。5分なら、まあ許容範囲かもしれない。10分だと印象はかなり悪くなる。15分も待たせると、レッドカードだろう。「大変に申し訳ないのですが、予定よ…

旅の神髄はスーパーにあり

(日経「春秋」2013/5/13付) 旅の神髄はスーパーにあり。出張でも観光でも、どこかに出かけたときは地場のスーパーをのぞいてみると面白い。土産物店には置いてない、普段づかいの食品がそこここに控えているはずだ。最近は、スーパーめぐりがちょいとブー…

3次元プリンターは作る人と使う人の垣根を消す

(日経「春秋」2013/5/12付) 何かが手軽にできるようになることは、往々にして危険や落とし穴と表裏一体である。家庭でもプラスチックで拳銃が作れてしまう設計図を大学生がネット上に公開し、議論を巻き起こしたニュースだ。用いるのは「3次元プリンター…

帰りじたくのお客さんが、突然ステージに招きあげられた

(日経「春秋」2013/5/11付) 文楽をきつねうどんにたとえて、竹本住大夫さんは、人形がお揚げさんで、それを生かす土台が、うどんの大夫とおつゆの三味線。土台のおいしさあっての文楽なのだから、昔は見にいくのではなく聴きにいくといった。舞台を食べも…

通奏低音のように街全体を包む狭い路地の看板

(日経「春秋」2013/5/10付) 東大阪市は6千の町工場がひしめくものづくりの街である。機械の音が通奏低音のように街全体を包み、狭い路地に金属と油の匂いが漂う。その看板を眺めながら歩くと、この街は看板に偽りが多い。会社の名前に「○○ミシン工業」「×…

お上は出しゃばらぬほうがいい

(日経「春秋」2013/5/9付) なんだか危ない人だね……などと若い人たちが使う。ちょっとヘン、うさんくさい、怪しいといった意味だ。アブないと書けばその雰囲気がよく表れよう。政府が打ち出すあまたの政策のなかにも、なんだかアブないものが混じっている。…

科学で耳にするもっとも胸躍る言葉は「へんだぞ……」

(日経「春秋」2013/5/8付) SF作家にして生化学者のアイザック・アシモフが言ったそうだ。科学で耳にするもっとも胸躍る言葉、それは「私は発見した!」ではなく「へんだぞ……」である、と。この「へんだぞ」は門外漢の胸まで躍らせる。陸地でしかつくられ…

福島県のがれき処理、来春完了は困難 環境省

(日経2013/05/07 11:20) 環境省は7日、東日本大震災で発生した福島県のがれきの処理について、当初予定していた来年3月末までの完了は難しいとの見通しを明らかにした。福島県の処理が遅れているのは、東京電力福島第1原発事故の影響で進まないためだ。…

カエルのうち半数以上が「絶滅危惧種」に指定

(日経「春秋」2013/5/6付) おびただしい数のカエルが水面に鼻先だけ出して浮かんでいる。手足と体は水槽の中でだらんと垂れ下がっている。広島大の両生類研究施設が飼う3万匹のカエルである。「これは至福の満足感にひたっている姿なのです」と、特任教授…

研究所は人間の気持ちを研究するところ

(日経「春秋」2013/5/5付) ホンダの創業期の商品のひとつ「カブ号」、赤いエンジンに白い燃料タンクを組み合わせたその明るくめでたい色が戦後の復興を急ぐ人々を鼓舞したのかもしれない。本田宗一郎氏が自ら思いついたアイデアだった。芸術作品と違って商…

じっくり型の観光文化が、日本でも根づいていいのでは

(日経「春秋」2013/5/4付) イタリアで最も美しい避暑地といえば、南部のアマルフィ海岸らしい。この国に詳しいノンフィクション作家の島村菜津さんが近著「スローシティ」でそう書いている。観光客の多くは町から海を眺める。「しかし振り向いて山を見てほ…

変えるも変えぬも、出発点はそこにしかない。

(日経「春秋」2013/5/3付) それは、野球で「球をよく見る」という類いのことである。基本中の基本、憲法とはそもそも何かについて、橋下さんは「特定の価値を国民に押しつけるものでなく、国家権力を縛ってその乱用を防ぐものだ」と説いたという。伊藤博文…

「富士は日本一の---」この歌が発表された1911年はそうでもなかった

(日経「春秋」2013/5/2付) あたまを雲の上に出し――富士山を世界遺産に登録へ、と聞いて、つい口ずさんだ方もいよう。ご存じの通り、1番も2番も終わりは「富士は日本一の山」だ。戦後に育った世代には、すんなりと胸に落ちる表現だろう。ただ、この歌が発…