2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

文化の越境

(日経「春秋」2012/11/30付) 日本語の書き言葉には緊張感が宿っている――。米国に生まれ日本語で書く作家として知られるリービ英雄さんに、この国の言葉の魅力をうかがったとき即座にこんな答えが返ってきた。「大陸の文字を変形して島国の感性をあらわす仮…

東京は国に負けていない

(日経「春秋」2012/11/29付) お隣の韓国では、一足早く選挙戦が始まっている。経済規模を比べれば、東京は韓国一国をも上回るマンモス自治体である。きょうがその都知事を選ぶ選挙の告示の日だ。13年ぶりに首都の顔が交代するレースとなるが、衆院選と投票…

「それをお金で買いますか」

(日経「春秋」2012/11/28付) 先日の東京の独演会の桂文珍師、「お金があれば割り込めちゃうんだからすごいですねえ」ってな調子で観客をおおいに沸かせていた。師も読んだのだと思う。マイケル・サンデル米ハーバード大教授の「それをお金で買いますか」に…

日本各地で集めた中古のランドセルをアフガニスタンに贈っている

(日経「春秋」2012/11/27付) 子供時代の思い出が染み込む物といえばランドセルだろう。百貨店の入学用品の売り場は、いまが盛況。呼び名の源はオランダ語の「ランセル(背嚢(はいのう))」らしいが、小学生のために考え抜かれた日本独特のデザインは、欧…

敵のスパイクを拾って拾って、粘る

(日経「春秋」2012/11/26付) 「おれについてこい」。1964年の東京五輪で優勝した日本の女子バレーボールチームは、当時の社会にまさしく列島あげての大興奮をもたらしたと記憶する。ソ連を下したその決勝戦の映像全編が、このほど見つかったそうだ。ハイラ…

伝えるべき物語と、学びを望む人

(日経「春秋」2012/11/25付) 宮城県石巻市の「石ノ森萬画館」は海に近い旧北上川の中州に立つ。昨年の津波で損傷し、休館を余儀なくされた。このほど再開した同館は、一画を震災の日とその直後の状況を伝える展示にあてている。震災の体験や記憶を、どう語…

中央値は「個々の事例とはほとんど無関係」

(日経「春秋」2012/11/24付) 2002年に亡くなった米国の進化生物学者、スティーブン・J・グールドは、文系の人も楽しめる科学エッセーで世界的に知られた。数ある著作のなかで、本人が「溺愛するわがまま息子」といとおしんだ1冊が「フルハウス」だ。この…

まあ、シンタローだからねえ

(日経「春秋」2012/11/23付) 石原慎太郎さんは「言葉の人」だ。「三国人」発言や「ババア」発言に眉をひそめていた世間も、やがて受け流すようになった。「まあ、シンタローだからねえ」とはいえ、「日本も核保有のシミュレーションをすればいい」とか「日…

劇場型百貨店はどんな手を次々に打ってくるだろうか。

(日経「春秋」2012/11/22付) 大阪梅田はかつて、池や沼の多い湿地帯だった。それを埋め立てた「埋田」が転じて梅田になったといわれる。ビルの建設はしばしば基礎工事に手間がかかった。昭和の初めの1929年に開業した阪急百貨店も、工期が予想外に長引く難…

日銀の独立を侵すのは政治の行き過ぎだ

(日経「社説」2012/11/21付) 自民党が日銀法の改正も視野に入れ、大胆な金融緩和を促す衆院選の政権公約をまとめる。安倍晋三総裁は建設国債の全額引き受けや無制限の金融緩和などを求める考えも示した。安倍氏の発言は一線を越えているといわざるを得ない…

誰に今後を託すのか、ここはしっかりと目を凝らさねばなるまい

(日経「春秋」2012/11/20付) もう何十年も前の話だが、東武鉄道の浅草駅に行くのが楽しみだった。百貨店を併設した駅ビルだったし、屋上遊園地にも心が躍った。そして、建物の2階から列車がきしむ音をたてながら隅田川に飛び出して行く。旅の第一歩がそこ…

BRTと呼ばれるバス高速輸送システムだ

(日経「春秋」2012/11/19付) 日の丸の小旗を打ち振る人々がホームを埋めつくしていた1万の群衆。「焦茶(こげちゃ)色に日焼けし海風に鍛え抜かれたおばさんたち」が喜々として踊りを披露する――。1977年、宮城県の気仙沼線が開通したときのルポだ。その気…

新党と聞けば、若々しくて元気な集団を期待したいところだが

(日経「春秋」2012/11/18付) 維新と太陽が合流、きのう意気投合したかと思えば、きょうは不快感を示すこともある。めまぐるしい第三極の動きに目が回りそうだ。新党と聞けば、若々しくて元気な集団を期待したいところだが、なにやら古くさい政治臭が漂って…

自らの失職を万歳で歓迎

(日経「春秋」2012/11/17付) 国会議員は、もうあてにしないことにしたよ――。東日本大震災で工場が全壊したある食品製造会社のトップから、そんな決別宣言を聞いたのは1年前の秋だった。助けてくれたライバル会社があった。再建資金を出資してくれる都会の…

飽きないでください。それだけでいいです

(日経「春秋」2012/11/16付) 歌手の松任谷由実さんが尋ねた。「(私は)こんなにステージをやってきて、お客さんも喜んでくれているけど、この先に何があるんですか」。森光子さんが答える。「飽きないでください。それだけでいいです」。「放浪記」の主人…

伝家の宝刀、その切れ味や剣さばきはどれほどのものだろうか

(日経「春秋」2012/11/15付) ここぞというとき、家宝の刀を抜き放つ。その刀の柄(つか)に手をかけたまま「近いうちに」と言い続けていた野田佳彦首相が「16日に解散する」と決断した。党首討論で解散の日取りを言い出すのは異例のことだが、そのまま一気…

タゴールの詩は、インドとバングラデシュの国歌

(日経「春秋」2012/11/14付) 1913年にアジア人として初めてノーベル賞を受賞したタゴールの詩は、インドとバングラデシュの国歌となっている。ともにベンガル語で書かれている。ヒンディー語を話す人が最も多いインドでベンガル語の歌が国歌になったのは、…

確かにルールはあるが

(日経「春秋」2012/11/13付) 確かにルールはある。が、被害者の立場への想像力が少しでもあったなら、ルールはあえて曲げてしかるべきではなかったか。先週、男が以前つきあっていた神奈川県逗子市の女性を殺して自殺するという事件がおきた。人を逮捕する…

田中氏に閣僚の資格はないのか

(日経「社説」2012/11/10付) これほどの混乱を引き起こしておいて、大臣の職にとどまるのはあまりにも無責任ではないか。来春開学予定の札幌保健医療大など3校の開設について田中真紀子文部科学相が審議会の答申を覆し、いったん不認可とした問題だ。田中…

旺盛な企業家精神が、米経済の強さの根っこにありそうだ

(日経「春秋」2012/11/11付) ロムニー候補のTシャツは2枚15ドルで、最後のたたき売り。オバマ大統領の方は2枚で20ドル。商魂たくましいと言うべきか。オバマTシャツは、投票の翌日には早くも「就任式」と書いた新製品が出たそうだ。先が見通せなくても…

オープンソース型の開発

(日経「春秋」2012/11/10付) オフィス街のショールームで、勤め帰りの女性が新車を眺めて言う。「誰か、こんなすてきな車に乗って、目の前にあらわれないかな」。梶山季之さんの小説「黒の試走車」の冒頭のひとこまだ。デザイン、性能、価格で街の人々をひ…

東電は3万8千人の社員が福島で生の声を聞く

(日経「春秋」2012/11/9付) 東京五輪のあった1964年は、金融引き締めで景気が冷え込んできた年でもあった。会長になっていた松下幸之助氏は実情を聞く場を設ける。会合を開いた場所をとって「熱海会談」と呼ばれている。200人も集めたのに「会談」と社史に…

民主主義の強さと難しさ

(日経「春秋」2012/11/8付) 「イツクモ選挙ノウハサノミナリ」と140年前に米国を見た「岩倉使節団」の随員が記している。維新後の日本をたち列強を巡った使節団は、ちょうど大統領選を迎えていた米国でその熱気に触れた。現在は、大接戦が伝えられたわりに…

過ちを宥すに大とするなく、故を刑するに小とするなし

(日経「春秋」2012/11/7付) 「6年前も」とあり「3年前にも」とある。エレベータ事故、観光での遭難。「過ちを宥(ゆる)すに大とするなく、故(こ)を刑するに小とするなし」と中国の古い言葉にあった。過失はなるべく許してやり故意は罪が小さくても見…

道理なき大学開設不認可は直ちに撤回を

(日経「社説」2012/11/06) 田中真紀子文部科学相が、来春開学予定だった大学3校の設置を不認可とした。不認可になったのは秋田公立美術大、札幌保健医療大、岡崎女子大で、いずれも短大や専門学校を4年制大学に移行するケースだ。田中文科相は「大学が多…

サイバー空間に潜んでいる危うさに鈍感な人はまだまだ多い

(日経「春秋」2012/11/5付) 「ブロンズの夜」。後にそう呼ばれることになる騒乱がエストニアの首都タリンで起きたのは、2007年4月のことだ。政府の機敏な対応もあり、2日ほどで暴力的な騒ぎは収まった。むしろ世界の注目を集めたのは、その後の出来事だ…

行政のムダを省く努力がまだ足りない

(日経「社説」2012/11/4付) 会計検査院が国の2011年度の決算検査報告をまとめた。税金の使い方に問題があると指摘したのは513件で、金額は過去2番目の5296億円に上った。東日本大震災の復興増税と消費増税で約24兆円の負担増を求めるのに、不適正な支出が…

いきなり来春の開設まで不認可とはなんと無体な話だろう

(日経「春秋」2012/11/3付) 社会学者の竹内洋さんが、学校について「アウラ(輝き)」というキーワードで説いている。終戦後までは、学校がアウラを放っていても人々が必ずしも頼りにしていなかった時代。現在はどうかといえば、大学も大衆化してアウラは…

新しい住み方を考えてみませんか

(日経「春秋」2012/11/2付) 中古の家やビルを改装し、新築の家では難しいような、新しい住み方を考えてみませんか。学生や若手設計家たちを対象に、そんなアイデアコンテストが開かれている。作品から垣間見えるのは、少子高齢化や社会的孤立への若い世代…

境界なき世界の捜査が難しい

(日経「春秋」2012/11/1付) 夜中に出歩かなければ、危ない目にあわない。歓楽街に出かけなければ、暴力沙汰に巻き込まれない。安全と危険を隔てる時間や場所の境界が、かつては存在した。境界が存在しない、インターネットの世界ということになろうか。な…