2014-04-01から1ヶ月間の記事一覧

スポーツが解き放つ人の性根に潜んだ差別意識

(日経「春秋」2014/4/30付) 1903年に現在のポーランドに生まれたユダヤ系の物理学者フリッツ・ハウターマンスは、ドイツで暮らした時期、「君たちの先祖が森で暮らしていたときに、俺たちの先祖はもう小切手を偽造していたんだぜ」と述べていた。ジョーク…

富岡製糸場、変革期の物語を伝える名所になってほしい。

(日経「春秋」2014/4/29付) 勤め先がどこかと聞かれて、得意げに会社の名を言う人もいる。逆に「ごく普通のサラリーマンです」などと口の中でぼそぼそ語る人もいる。明治初期に富岡製糸場で働く工員たちは、どうだったか。工場を案内するボランティア男性…

比較的、認知症と縁遠い人は、感情を遠慮なく表現し、逆境も楽しむ?

(日経「春秋」2014/4/28付) 年をとってから認知症になる人をあまり見かけない職業が2種類ある。専門医の長谷川嘉哉さんが、披露している。それは、作家や音楽家、画家などの芸術家と、やり手の創業経営者だという。感情を遠慮なく表現し、逆境も楽しむ。…

欠伸は人生に欠かせない

(日経「春秋」2014/4/27付) 「みんな欠伸(あくび)をしていた」――。三島由紀夫の小説「鏡子の家」の、よく知られた書き出しである。男たちの抱える退屈さと時代の空気を、三島は冒頭の一文で言いあらわした。近ごろの陽気だとうっかり人前で大あくびをし…

名前がつくと、それだけで丁寧に扱う

(日経「春秋」2014/4/26付) ある学童クラブで、愉快な話を聞いた。みんなで使う文房具一つ一つに名前をつけているというのだ。たとえば赤いはさみは「はなこ」で、青は「こたろう」。「ナンシー」「ダニエル」といった外国生まれ?のホチキスもあるらしい…

TPPは世界の枠組みを望み通りチェンジさせる数少ない切り札である

(日経「春秋」2014/4/25付) 第34代のアメリカ大統領アイゼンハワーが「私が最もいやなのは、へたな手紙にサインしなければならないときだ」と言ったそうだ。当時の副大統領のニクソンが著書で明かした話だ。首脳同士が話し合ってから公にする共同声明にも…

どんなに歳月を重ねても失敗を忘れるな

(日経「春秋」2014/4/24付) 韓国語というとハングル文字の印象が強いけれど、もともとは漢字を使っていた。語彙の6〜7割が漢語由来とされ、それを韓国式に音読みしてハングルで書いているわけだ。珍島沖で沈没事故を起こしたセウォル号のセウォルも、漢…

期待して議事録を見たのちの歴史家は何を思うだろうか

(日経「春秋」2014/4/23付) イタリアのフィレンツェはルネサンスが花開いた都市だ。指導者たちが権力闘争に駆り立てられる動機や彼らの内面にも迫り、そこから何かをつかもうとした。国は秩序ある状態から無秩序へ、そして再び秩序ある状態へと移り変わる…

ときには立ち止まり若葉の梢(こずえ)を眺めてはどうか。

(日経「春秋」2014/4/22付) 戦国武将の黒田官兵衛は、キリシタンだった。大分・中津に居城を定めた1587年のイースター(復活祭)に大規模な洗礼式を行い、多くの武将を改宗させた。いまでも教会によっては、深夜から始まるミサに、ロウソクを手に信者が集…

外国人の活用に「国家百年の計」を

(日経「社説」2014/4/21付) ■見直したい技能実習 外国人の労働力の活用を真剣に考えるときだ。足元の人手不足、中長期的な労働力不足のそれぞれについて、戦略的に外国人受け入れ政策を練る必要がある。このため政府は緊急措置として、途上国の人材に日本…

「襟裳岬」の何もない春、という詞に地元が怒った例もある

(日経「春秋」2014/4/20付) 若い教師が地方都市の旧制中学に赴任した。ところが生徒からは嫌がらせを受け、あれこれトラブルが続き、短期間で辞職、東京の実家に戻ることを余儀なくされた。「坊っちゃん」、舞台は漱石が実際に教師を務めた愛媛県の松山市…

はしかの患者数は4月はじめまでに253人、昨年1年間の総数を上回る

(日経「春秋」2014/4/19付) ウイルスと聞けばインターネット空間を思い浮かべることが多くなった。本物のウイルスの方は昔も今も変わらず人類の大きな脅威であり続けている。今年の患者数は4月はじめまでに253人で、昨年1年間の総数を上回った。一度は経…

書店員たちの「イチオシ」で受賞作

(日経「春秋」2014/4/18付) 昭和11年、太宰治は芥川賞選考委員の佐藤春夫に懇願の手紙を書いた。その時代に「本屋大賞」があったなら、太宰など全国の書店に「私を助けて下さい」と手紙を出しただろうか。なにしろ既存の文学賞と違って作家は選考にいっさ…

プーチン大統領が「内戦寸前」という事態にまで立ち至っている

(日経「春秋」2014/4/17付) 歴史の墓場に眠っていたはずの幽霊を、現実が呼び覚ますことがある。ウクライナとロシアの対立をめぐって時に語られる「制限主権論」という言葉もそうだろう。理屈は社会主義を守るのでなく旧ソ連を守るためにあった。一人前は…

世の中の移り変わりにしなやかに対処しながら伝統を守っていこう

(日経「春秋」2014/4/16付) 寒ブリなど豊かな海産物で知られる富山県氷見市は「獅子舞の里」と呼ばれたりもする。「日本書紀」によれば、獅子舞が中国から伝わってきたのは7世紀。長い時をかけて日本の風土に根を下ろし、土地ごとに独自の成長をとげてき…

桜は、ただ咲き、ただ散るだけ

(日経「春秋」2014/4/15付) 何十万枚か。それとも何百万枚だろうか。日本全国でどれだけ多くの人が、携帯でシャッターを切ったことだろう。人の背中を押し、何かせわしい気分にさせる霊力が、桜の花にはあるらしい。けれども、散る時期の桜の見事さも忘れ…

新人たちよ、無理に新環境に自分が合わせようとするなかれ

(JN) 新年度、2週間ほど経過した。初めは只管一生懸命であった新人のみなさに、疲れが出てきたであろう。それは学校の新入生、職場新人、或いは異動による新環境様々であろう。何とか早く、そこに馴染もうと無理をして、気を使い疲れるし、それを考える…

文化輸出のカギは、多様な人材を生かせるかどうかにある

(日経「春秋」2014/4/13付) タイのバンコクに近年できた「ターミナル21」という商業ビルは、階ごとに異なる海外の街を「再現」したのが特徴だ。パリ、ロンドン、サンフランシスコなどと並び東京をテーマにした階もある。内装を見ると、タイの人が東京の何…

誇り高き盲腸

(日経「春秋」2014/4/12付) 誰が言いだしたのか「盲腸線」という言葉がある。鉄道の本線からちょこんと突き出した支線のことだ。こういう路線の大半は乗客もごく少ない無用の長物と見なされ、それが人みな腹中に抱える盲腸と同じ、というわけだろう。正し…

人生の終盤に新たに興味を持てるものを見つけるのは難しい

(日経「春秋」2014/4/11付) 「あなたの仕事は、私の体のなかに捕らわれの身になっているレンブラントを解放してやることだ」。絵を習っていて、先生にそう注文したというユーモアの感覚は大したものだ。アメリカのブッシュ前大統領が引退後に油絵に手を染…

科学の世界からはひどく遠いところにきてしまったこの騒ぎ

(日経「春秋」2014/4/10付) きのうヨシミにきょうハルコ、「時の人」が謝罪、釈明、反論の記者会見に出てきてテレビ桟敷もあわただしい。8億円問題の渡辺喜美先生に続き、こんどはSTAP細胞の小保方晴子さん登場である。いかにも政治家の、のらりくら…

小林一三だって、花開くまでに14年もかかっている

(日経「春秋」2014/4/9付) 小林一三といえば、アイデアが泉のように湧いた独創的な実業家である。その彼は、初めから順風満帆ではなかった。三井銀行に入るが、やる気がない。当時は1月入社だが、小説執筆に没頭して、4月にようやく顔を出した。出世は遅…

農協に、自己改革の意気込みがあまり感じられない

(日経「春秋」2014/4/8付) 必要なものを、必要なときに、必要なだけ――といえば、ひろく知られたトヨタ生産方式だ。この方式は、じつは意外なところからヒントを得た。米国のスーパーマーケットだ。トヨタ自動車の技術陣はピンときた。日本にまだスーパーが…

「新卒一括」採用は本当に効率的か

(日経「社説」2014/4/7付) 大手企業は4月から一斉に、4年生になった学生に筆記試験や面接を始めた。こうした特定の時期に集中して学生を選考し、内定を出す新卒一括採用方式は、企業が採用コストを抑えられる効率的なやり方として定着してきた。だが、こ…

打ち上げられた深海魚の竜宮からの新たなメッセージ

(日経「春秋」2014/4/6付) リュウグウノツカイをご存じだろうか。この深海にすむはずのこの魚が、今年に入って各地で見つかっている。これ以外にも、ダイオウイカやサケガシラといった深海からの珍客が相次いで水揚げされている。深海のこうした生きものが…

実は日本の大学は周回遅れ

(日経「春秋」2014/4/5付) 満開の木々がざわめくようだ。薄桃の雲が千鳥ケ淵、上野公園など名所を覆う。これを牧野富太郎博士なら、まだまだ貧相と言うだろう。彼は、東京を桜で埋め尽くし、世界に誇る「花の都」にしよう、と夢を語った人だった。「私は植…

スーパーグローバルハイスクール

(日経「春秋」2014/4/4付) 「超」だの「めちゃ」だのというと薄っぺらに聞こえるが、英語で「スーパー」と言い換えればもっともらしいお役所言葉になるものだ。文部科学省が全国の高校56校を「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」に選んだというニ…

捕鯨の現実を見つめ直そう

(日経「社説」2014/4/3付) 南極海での日本の調査捕鯨は国際捕鯨取り締まり条約に違反するとして、国際司法裁判所は中止するよう命じた。(1)鯨を殺さないで生態などを研究する方法を十分に模索していない(2)期限を設けていない(3)設定した捕獲枠と実際の捕…

STAP細胞の存否確認は「調査委のミッション(任務)を超える」そ

(日経「春秋」2014/4/2付) あの華やかな第1幕はまだ2カ月前のことだ。弱酸性の刺激を与えるだけで万能細胞ができるという画期的な発見である。第2幕は文字どおりの暗転である。舞台は荒涼として、次から次へと疑惑が噴き出す。ただし肝心のSTAP細胞…

吟味と衝動とを載せた天秤が普段にまして衝動の側に傾く

(日経「春秋」2014/4/1付) 新年度を迎え「さあ、やるぞ」というときに、少しぜい肉がついた気がする。身の回りにモノが確実に増えている。消費税率引き上げは17年ぶり。5%が8%になれば国民1人にすると年に5万円ほど出費がかさむ。買いだめなのである…