シリアの危機打開へこの機を逃すな

(日経「社説」2013/9/12付) 米国によるシリアへの軍事介入が回避される可能性が出てきた。オバマ米大統領は国民向けの演説で、シリアの化学兵器を国際監視下に置いて廃棄するというロシアの提案を評価し、外交努力を優先する方針を表明した。米ロの歩み寄りを歓迎したい。国際社会はこの機を逃さず、提案を実行に移さなければならない。問題は実効性だ。シリアのムアレム外相は提案受け入れを表明し、「化学兵器を全廃する」と述べた。化学兵器保有を認めてこなかったシリアが一転、国際管理の受け入れを認めたのは前進だ。化学兵器保有量や製造・保管施設を正しく公表し、確実に引き渡すよう国連安保理決議で定めることが大切だ。化学兵器禁止条約への加盟も求める必要がある。ようやく見えてきた危機打開のチャンスである。常任理事国には駆け引きを繰り返す余裕はない。アサド政権による化学兵器の使用を封じることは重要だ。今回の軍事介入の動きは、化学兵器でシリアの多数の市民が死亡したとされる事件がきっかけだ。経緯を調べ、責任を問うことも忘れてはならない。シリアの内戦では10万人が死亡し、200万人が難民となった。軍事介入が回避できても、内戦が続く状況は変わらない。その終結こそが国際社会の役目である。
(JN) 殺人兵器に良い悪いがあろうはずはないが、国際社会では化学兵器の利用はタブーになっている。それを守るためには、兵力を使って抑えることになるわけだが、珍しくロシアが仕事をした。しかも、シリア政府は化学兵器の使用を認めたと。平和に事を納めることができれば、それは良いのであろうが、シリアの政権は誰がお治めるのか、治められるのか。このアラブ地域の部族間勢力争いを根本的に考え直していかなければ、強力なグループが力を弱めれば、また紛争の繰り返しなのであろう。それを好都合に米ロは利用していたが、その米ロの力バランスが崩れ、その意向通りにならなくなった。権力者たちの欲望の中で、まだまだ一般大衆は恨みあい苦しみあって行かなければならないのか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO59602320S3A910C1EA1000/