2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「木浦のオモニ(母)」

(日経「春秋」2012/9/30付) 「木浦のオモニ(母)」と慕われる日本人がいた。夫の遺志を継いで孤児施設を営み、3000人の子どもたちを育てた田内千鶴子さんがその人だ。生誕100周年の10月31日を中心に、両国で記念行事が開かれ、木浦市長も近く来日する。日…

「ソニーらしさ」を取り戻さなければ、会社に元気が出てこない

(日経「春秋」2012/9/29付) ソニーという社名は音を意味するラテン語の「sonus」と、親しみを込めて「坊や」というときの、英語の「sonny」を掛け合わせている。名は体を表す。より小さな製品を追い求めてきた歴史でもある。コンパクトディスク…

領土めぐる外交戦にどう対処するか

(日経「社説」 2012/9/28付) 尖閣諸島と竹島をめぐる中国、韓国からの攻勢にどう対処すればいいか。野田佳彦首相の国連総会での演説で、国際法にのっとって対立を平和的に解決するよう呼びかけた。日本の尖閣諸島国有化を受け、中国では日本大使館などのガ…

甘い言葉も、逆にむやみに勇ましい言葉もいらない

(日経「春秋」2012/9/27付) 「ガツンと大きな音がした後、空中に体を投げ出された」と乗客。神奈川県横須賀市で起こった京浜急行の脱線事故では、重傷者を含め20人を超す人々がけがをした。都市は自然をねじ伏せ成り立っていると改めて感じる。古地図研究…

もし戦争に出くわさなかったら日本文化はずいぶん伸びたんじゃないか

(日経「春秋」2012/9/26付) バイオリン(提琴)、この楽器を奏し、天才少女、神童とうたわれた諏訪根自子さんの訃報に接する。92歳。彼女を追ったノンフィクション「美貌なれ昭和」(深田祐介著)には、その生涯が第2次大戦に翻弄されるさまがなまなまし…

中国でビザ(査証)がなかなか下りず日本企業が困っている

(日経「春秋」2012/9/25付)日ごろは意識もしないのに、国家の威圧を嫌でも思い知らされる場所がある。外国で国家権力に最初に出くわす所は、空港の入国審査だろう。長い列で待つうちに、なぜか被告人になったような心細い気持ちになってくる。外国のお客さ…

駅員への乗客の暴力行為、昨年度は911件と過去最悪

(日経「春秋」2012/9/24付)眠っている乗客の表情を手帳に描き始めた。それから約20年。元会社員の保倉勝美さんは、退職後もスケッチを続けながら地元の埼玉県で作品展を開き、カルチャー教室で絵を手ほどきする毎日を送る。その電車内や駅構内に、今度は殺…

日本企業を指して「NATO」

(日経「春秋」2012/9/23付) 日本企業を指して「NATO」だなあと、北大西洋条約機構を指す略語ではなく、「ノット・アクション、トーキング・オンリー」の頭文字をつなげた新語。おしゃべりばかりで行動しない、という意味だ。アジア視察ツアーはいつも…

9月22日が「秋分日」になったのは116年ぶり

(日経「春秋」2012/9/22付) 暗黒物質やらビッグバンやら、天文学にからんだ話題には浮世離れした印象を受けることがある。わかりやすい例は太陽や月の動きの観測と予測だろう。つまり暦の作成だ。今日はそんな天文学の意義を再確認する日かもしれない。国…

日本を侮蔑して「小日本」なる言葉を連呼

(日経「春秋」2012/9/21付) デモ隊が日本を侮蔑して「小日本」なる言葉を連呼している。「もう戦争だ」「日本を占領せよ」「降伏しろ」。中国全体からみれば、騒いだのはごくわずかな若者に違いない。とはいえ、かくも激しい「反日」の光景はこの国との付…

民意におもねって拙速に矛盾だらけの決定をする

(日経「春秋」2012/9/20付) 三差路で迷った易者が通りがかりの牛遣いに道を尋ねた。意地の悪い牛遣いに「人のことが分かるんだから自分のことくらい占えるだろう」と言われた易者が答えていわく、「おっしゃるとおり占ってみたら、あなたに聞けという卦(…

規制委は厳格さで信頼を得よ

(日経「社説」2012/9/19付) 原子力の安全確保を一元的に担う原子力規制委員会がきょう発足する。規制委が最優先すべきは、関西電力大飯原発3、4号機に次いで再稼働の可否を判断する基準づくりだ。科学的な根拠と透明な手順を踏まえた基準づくりが欠かせ…

「さんま、さんま/さんま苦いか塩っぱいか」

(日経「春秋」2012/9/18付)サンマは、この秋も身をキラリ光らせ、われらを待つ。宮古、気仙沼、大船渡、石巻……。震災で打ちのめされ、復興への道半ばにある港にも水揚げが盛んだという。あの海を今年もサンマたちは群泳して下り、やがて銚子沖へと抜けてい…

新生赤レンガ駅舎はどんな時代の象徴として記憶されるだろうか

(日経「春秋」2012/9/17付) 古びた赤レンガ駅舎は取り壊してしまい、高層ビルに改築しよう。新幹線の開業もにらみ、1950年代の後半には24階建ての建物の完成予想図も公開されている。実現すれば、日本の超高層ビル1号は霞が関ビルではなく、東京駅になっ…

野田さん、歯切れの良さはどこへ行ったのか

(日経「春秋」2012/9/16付) 野田佳彦首相は1987年4月、29歳で千葉県議選に当選後、半年後、本会議場で初めて質問に立つ。地元市町村の問題を取り上げる議員がほとんどのなかで、「代表質問という自覚のもとに」30分の演説を始めた。県の課題と対策をはっ…

「二度と人員整理をしない」という不文律

(日経「春秋」2012/9/15付)100年前の9月15日、東京・隅田川の際に18歳の職人が町工場とも呼べない小さな店を構えた。6畳と土間だけの、細かい金物細工をする錺屋(かざりや)である。まず、ズボンのベルトを穴なしで長短自在にとめるバックルで当てる。…

散文精神、「歴史に責任を持つ」ことが大切

(日経「春秋」2012/9/14付) 「散文的」は褒め言葉でない。新明解国語辞典によれば「単調で、気分の高揚やしみじみとした情感が感じられない」他。一方で、作家の広津和郎に「散文精神について」と題した知られる小文がある。「どんな事があってもめげずに…

人を育てる力がある現場が社会の側にあるかどうか

(日経「春秋」2012/9/13付) OJTという言葉は死語だろうか。オン・ザ・ジョブ・トレーニング。バブル期には「当社の人材育成はOJT」と胸を張る会社が多かったが、最近では聞かなくなった。現実には教育制度とは名ばかりで、会社としては何もしない例…

燃え上がるばかりが愛国心ではない

(日経「春秋」2012/9/12付) 物理学者のアインシュタインは言ったそうだ。「ナショナリズムは子供の病気だ。人類にとってのハシカのようなものだ」。「たしかにハシカに似ている。熱が高くなるし、伝染する」。領土の話は人の胸にくすぶる愛国心という火種…

「加藤先生、大将なんだから。行っちゃ駄目だ」

(日経「春秋」2012/9/11付) 糟糠(そうこう)の妻は堂より下さず。自民党総裁の谷垣禎一さんが党総裁選への出馬を断念した会見を見て、失礼ながらこの故事が頭に浮かんだ。民主党に敗れて下野した自民党の代表を、3年間務めてきた。いよいよ勝負という段…

新米もまだ艸(くさ)の実の匂ひかな

(朝日「天声人語」2012年9月9日(日)付) お米の力というものを一番感じさせるのは、おにぎりだろうか。関東大震災のとき炊き出し組の一員に加わった作家の幸田文は、手の皮のひりひりする熱いご飯を、休む暇なく次から次へ握ったそうだ。何の愛想もない塩…

漱石は自分を「秋の代表者」のように感じた

(日経「春秋」2012/9/9付) 夏目漱石に「初秋の一日」、20年ぶりに会う高僧の顔は記憶と変わらず、むしろ若返って見えた。若いときに抱いた尊敬の念からか、僧の年齢が自分よりずっと上だと思い込み、勝手に60歳ほどと勘定していたからだ。再会した禅僧との…

燗は一種類ではない

(日経「春秋」2012/9/8付) ある日、繁華街のチェーン系居酒屋で。「えーと、日本酒ください」「冷酒ですか、熱燗(あつかん)ですか」「ぬる燗くらいにして」「え、何すか? それ」。別の日、郊外の和食の店で。「すみませーん、こちら酒。お燗でね」「か…

文科省いじめ対策に疑義あり

(日経「社説」2012/9/7付) これでいじめ問題が解決するなら苦労はしない。学校や家庭を支援する専門家らを「いじめ問題アドバイザー」として全国200カ所に配置する。子どもたちから相談を受けるスクールカウンセラーを増員する。個々の柔軟な対応が欠かせ…

中国は愚行の再発を防げ

(日経「社説」2012/9/6付について) 丹羽宇一郎駐中国大使の乗った公用車が北京市内で走行を妨害され日本国旗が奪われた事件で、中国当局は2人の男を行政拘留処分にしたと明らかにした。中国ではこの秋に開く共産党大会で、10年ぶりに指導部が大幅に入れ替…

「僕の感覚」なる言い回し

(日経「春秋」2012/9/5付について) 幕末の動乱期に志士たちの如く、昨今、ひんぱんに「僕」を口にする人といったら橋下徹大阪市長。維新だ八策だと志士みたいな橋下さんだから「僕」はお似合い。じつにさまざまなことを「僕の感覚」で決める人であるので、…

「農作物や経済の動き、社会情勢をにらんで決めているんだ」

(日経「春秋」2012/9/4付について)ドラえもんの「誕生100年前祭」、彼の誕生日は2112年9月3日がちょうど100年前だった。22世紀は実際、どんな世界だろう。彼にかかれば、国会だって「ポータブル国会」などというひみつ道具があり、自分で考えた法律を入…

若者にだってそれぞれの事情があり、思いがあるに違いない

(JN)この春の卒業生のうち約8万6000人は就職も進学もしておらず、なかでも3万3000人ほどはその準備もせずに過ごしているという。明治の末期、こういう若者が高等遊民と呼ばれた。『それから』(夏目漱石)の主人公、長井代助は「三十になつて遊民として…

自助と共助―まずは迷惑をかけあう

(JN)「自分の困りごとを表に出すのは恥ずかしい」と思いがちだ。でも、そんなことは言ってられない。合言葉は「助けられ上手になる」とのことである。これは災害を受けてのことだけではなさそうである。日々の家族内においてや職場においても、同様でな…

出光流の我慢の経営も新鮮だ

(JN)経営が苦境に陥ったら早めに人を減らし、会社も従業員も再出発した方が互いのためとなるが、出光の「大家族主義」、将来に備え人材をつなぎ留める経営もまた一つの考え方であろう。経営者は、コストや減らす人数の計算ばかりして、雇用を守る創意も…