紙の上であっても実際に絵を動かしてみて初めて人物に血が通う

(日経「春秋」2013/9/3付) 「飛ばない豚は、ただの豚だ」。「紅の豚」、主人公が操縦する赤い飛行艇が後にプラモデルにもなった。発売元のファインモールドの鈴木邦宏社長は、宮崎氏の許可を得ようと初めて訪ねた時のことが今も鮮明だ。「実際に空を飛べる構造にするなら、翼はこんな形状にした方がいい」「航空力学的には、これはこう……」。専門家に引けを取らない指摘も多々受け、知識の豊富さに驚いたという。プラモの場合もこうだから、細部へのこだわりは映画づくりで徹底していた。70歳を過ぎても絵を描くのを人任せにせずに、机に向かい続けてきた。「紙の上であっても実際に絵を(動画のように)動かしてみて初めて人物に血が通う。そうして初めて登場人物のことが分かってくる」。そんな宮崎氏が引退を決めたとの知らせがあった。「風立ちぬ」が最後の作品になるという。零戦の設計者、堀越氏は軽くて高速の飛行機をつくるという夢を追って、機体の重さや重心の緻密な計算を重ねたエンジニアだ。職人肌の異才が区切りを付ける作品として、いかにもふさわしい。
(JN) 宮粼監督と言えば、「となりのトトロ」である。昭和につくられ上映されて四半世紀が経ち、今も生き続けている。目に見える画像の奥に、秘密がいっぱいあるのであろう。宮崎映画では空を飛ぶことが多く、見え方、飛び方が魅力的であり、その一つひとつに様々な考えが隠されているのであろう。その精力的な作法、72歳にはもう長編作品はきついのか。長編は引退だが、まだ短編はやってくれるのか、あるいはまた異なった世界で活躍するのか。形式的な引退はあっても、能力に引退はないはずだ。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO59235710T00C13A9MM8000/