「世間より一歩先に進む」

(日経「春秋」2013/9/16付) 丸穴車、角穴車、二番車、三番車、四番車……。何のことかというと、手巻き式の腕時計に使われている歯車の名だ。ちょうど100年前の大正2年に現在のセイコーホールディングスが発売した国産初の腕時計も、これら数ミリの部品の数々がぎっしり詰まっていた。墨田区セイコーミュージアムで開かれている記念の展覧会で、歯と歯がぴったりかみ合うように、寸分の狂いなく仕上げた職人の技は驚きだ。「世間より一歩先に進む」を時計王といわれる創業者の服部金太郎はモットーにしていた。時計といえば柱時計を思い浮かべる時代に懐中時計の製造を始め、「家の時計」から「個人の時計」へ市場を広げた。時を刻むものを作るだけあって、世の中の流れを鋭く読んだ。いま時計産業に新たな波が押し寄せている。サムスン電子は通話やメール表示ができ、時間ももちろんわかる腕時計型の携帯端末を発表した。米アップルも腕時計型の端末を開発中という。時計業界はどう立ち向かうだろう。
(JN) 21世紀の世界は、腕時計がテレビ電話になり、車が空を飛び、有人ロケットは木星に向かい・・・・・・、1960年代の子どものころに夢見たことが実現しつつある。世間はどんどんスピード化し、一歩も二歩も先に進むことを考えねばならないのであろうが、我々人間にとってそのようなことでよいのか。1969年の「2001年」では、IBMのコンピュータよりも一歩先に進むというHALコンピュータが作られ、そのコンピュータは反乱を起こした。そのうち、人間より一歩先に進むコンピュータの時代が来るのであろうか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO59774980W3A910C1MM8000/