2014-01-01から1ヶ月間の記事一覧

僕の前に道はない/僕の後ろに道は出来る

(日経「春秋」2014/1/31付) 高村光太郎の「レモン哀歌」、死の床の智恵子がレモンの刺激によって「もとの智恵子」に戻る。さて、マウスの細胞を弱酸性の溶液に浸すだけで、さまざまな臓器や組織の細胞に育つべく「初期化」されるという。目からウロコのこ…

リスクがあっても創意と工夫で乗り越えるのが経営だ

(日経「春秋」2014/1/30付) 大阪府門真市にはパナソニックの本社や工場とともに、松下幸之助歴史館がある。屋上には当時の様子をよみがえらせる船のカジを操る丸い舵輪(だりん)ある。解体された船から松下氏が見つけて買い取ってきた。「会社を船にたと…

食材虚偽表示問題を受けてのガイドライン案

(日経「春秋」2014/1/29付) ヤマメは渓流の女王と呼ばれる美しい魚だ。その塩焼きは、まさに山の味なのだが、まったく同じ種でも海に下るタイプがあって、サクラマス、大きさはヤマメの3倍にもなるという。サケ科にはこの類が多く、アマゴとサツキマス、…

欧米メディアが伝える「安倍政権の素顔」が発足してから何も変わって

(日経「春秋」2014/1/28付) 「日本の危険な内閣」。「新内閣を保守と評したところで本質はとらえられない。急進的ナショナリスト内閣である」。欧米メディアの目のつけどころがよくわかった。「平和憲法の改定を目指すタカ派新政権」そんな「日本を見る目…

最近、ふと尊徳翁を思い浮かべる

(日経「春秋」2014/1/27付) 薪を背負って歩きながら本を読む少年――。それなりの年齢に達した日本人なら一度は目にしたことがあろう。全国の小学校の校庭などに陸続と建てられたのは大正のころからという。刻苦勉励して立身出世をとげ、世のため人のために…

「日本人よ、わたしたちよ、これでいいのだろうか」

(日経「春秋」2014/1/26付) そのドキュメンタリーは怒りに満ちている。大島渚さんが1963年の「忘れられた皇軍」。ずっと再放送の機会に恵まれてこなかった作品が先ごろ、監督の一周忌に合わせて半世紀ぶりに電波にのった。旧日本軍の兵士として戦い、手足…

「被害者にも原因がある」と主張する組織ほど新しい被害者が生まれる

(日経「春秋」2014/1/25付) まだ20代の若者を羽交い締めにし、火が通って熱くなった食べものを顔に押し当てる。これが警察官の集まりでの出来事だという。静岡県警が、地位や権限を乱用したとして9人の職員を処分した。このうち2人は依願退職したという…

「嫌いだけど、いないと物足りない」という強敵を相手チームに求める

(日経「春秋」2014/1/24付) 1964年、ヤンキースは転落への曲がり角にあった。この年から惨状が11年続くのである。「この地球上で時間が始まって以来ずっとWSに出場してきたように思えた」と書かれた名門は、半世紀後のいま、成績だけなら普通の球団にす…

元首相が躍り出てきた図を都民はどう見よう

(日経「春秋」2014/1/23付) 銀座の天ぷら屋の息子だった国文学者、池田弥三郎は「東京っ子」と「東京人」を区別していた。江戸の昔から代を重ねてきた自分たちは東京っ子。東京っ子には田舎がないのさ……。それにひきかえ、帰るべき故郷をもつ東京人は東京…

いまの時代でもオウム事件的なものは十分起こり得る

(日経「春秋」2014/1/22付) 「助けて」と繰り返す仮谷清志さんに、計画通り麻酔薬を投与した……。中川智正死刑囚が出廷し、拉致事件の日のことをそう証言した。この場を借りておわびしたいとも述べている。なぜその時、その場で自らの行いを判断できなかっ…

市民の自由は権力の座にある者の善意など当てにはできない

(日経「春秋」2014/1/21付) 先週末、オバマ米大統領が司法省で、「市民の自由は権力の座にある者の善意など当てにはできない。自由が当てにするのは、権力を持つ者を縛る法律である。我々の政府という仕組みは、そういう前提のうえにつくられている」。指…

上野の森を再設計して世界に向けて開けば

(日経「春秋」2014/1/20付) 東京の上野には2つの顔がある。東北とつながる玄関口としての顔、たばこの煙と夜行列車の汽笛がよく似合う上野のイメージは、人々が額に汗して働いた高度成長期の象徴でもあった。もうひとつの上野は、少し控えめな表情で森の…

是非を問う選挙戦に、市民の意思が示される

(日経「春秋」2014/1/19付) テニアン島、第1次世界大戦の後の一時期、日本の統治下にあったことから日本とのつながりは深い。デンキ、クワ、ゾウリ、ベントウ、ミソシル、今でも現地でそのまま通じる。年始に訪れた際、米軍がジャングルをあっという間に…

大切なのは、子供が自ら育っていく環境をつくること

(日経「春秋」2014/1/18付) 茨城県の伝統工芸品、笠間焼の窯元が開く陶芸教室は、親よりも小学生らの子供たちが真剣なまなざしだ。「子供たちには頭の中にあるものをアウトプットしたい本能がある」。その力をどう引き出すかが大人の腕の見せどころだ。終…

なぜ前途有為の若者たちがオウムに走ったのか

(日経「春秋」2014/1/17付) オウム真理教について、米国の精神医学者、ロバート・リフトン氏は1999年に刊行した「終末と救済の幻想」で、あの教祖は全人類に対して戦争を仕掛けたのだ、と。終末論にとりつかれ、殺人もまた救済だと唱えるカルト教団がサリ…

四季に輝き、人々を魅せる宝石箱のような日本

(日経「春秋」2014/1/16付) 幻の世界のようにきらめいている。北国で見られるダイヤモンドダスト現象は、たぶん本物の宝石より美しい。厳しい冷え込みが続き、北海道の陸別町では氷点下25度を記録した。九州でも動物園の亀やカピバラがストーブを囲んで暖…

理性に服従しなければ、ばかである

(日経「春秋」2014/1/15付) パスカルに、「記憶は、理性のあらゆる作用にとって必要である」と。その記憶をくすぐられるのが東京都知事選である。1000万有権者がたった一人の当選者を決める都知事選は、とらえようによってはこの国最大の選挙だ。だから名…

「隠し子3人」に罰金は1億3千万円相当

(日経「春秋」2014/1/14付) 「紅いコーリャン」「活(い)きる」「初恋のきた道」――。中国の張芸謀監督が今、大変な苦境に陥っている。いわゆる一人っ子政策に違反する、複数の子供をもうけていると、ネットでの書き込み、これを受けて調査があった。監督…

若者がしなやかに生きられる社会を

(日経「春秋」2014/1/13付) 話が弾む、正月休み、久々に高校のクラス会。1970年代半ばに母校を巣立ち、それぞれの道を、それぞれのやり方で歩んできた仲間たちである。もっと若いころは再会してもみな妙に肩に力が入っていたものだ。思うようにならぬこと…

店の一角にこたつを置いた

(日経「春秋」2014/1/12付) 有数の繁華街の池袋に、この街のビルの2階に昨年秋、1軒の小ぶりな個人書店が開業した。寒さがつのるころ店の一角にこたつを置いた。見知らぬ客同士が靴を脱ぎ、暖を取りつつ愛読書について語り始めた。読書会や勉強会が開か…

日帰り旅行の費用は事前の訓練を含めざっと2600万円

(日経「春秋」2014/1/11付) 東京から新幹線で西に走れば熱海あたり、新大阪から西なら姫路。100キロとはそのくらいの距離である。天文学者フレッド・ホイルは「宇宙はちっとも遠くない。車がまっすぐ上に向かって走れるなら、たった1時間のドライブだ」と…

グリコ・森永事件が起きてから未解決のまま今年で発生30年になる

(日経「春秋」2014/1/10付) 刑法には「飲料水に関する罪」という章がある。毒物混入によって人を死なせた場合の最高刑は死刑。明治時代に刑法を定めたときから、これらのくだりはあった。不特定多数の人が使う浄水だから、毒などが投げ込まれれば被害はと…

名前だけでなく、中身を変えることも忘れないでほしい

(日経「春秋」2014/1/9付) 石油から生まれたものは、私たちの暮らしを豊かで便利にしてきた。石油化学という技術だ。その言葉に代わる、もっとふさわしい言い方はないかと、業界団体が公募している。理由は新しい素材が出てきたためだ。地中のシェールガス…

神を待つ、ゆえにこの木がマツ

(日経「春秋」2014/1/8付) 「日本語で花とはかならずしも英語のflowerを意味しない」。詩人の高橋睦郎さん、日本では松こそが花の中の花なのだという。新年に歳(とし)の神を迎えるためにも欠かせぬ存在だ。歳の神は海のかなたから訪れるから海岸に…

理性と感情が同居する築地の熱気

(日経「春秋」2014/1/7付) 築地市場の初セリで、去年は1億5540万円の値が付いたマグロが、今年は736万円だった。値段は20倍も違うが、マグロはマグロである。味に20倍の差があるわけではない。去年まで金額がつり上がっていたのは、すしチェーンの「すし…

ハンスト、自由と民主を求めての抗議

(日経「春秋」2014/1/6付) 驚きのニュース、鳥羽水族館で育てているダイオウグソクムシという生き物が、絶食を始めてから6年目に入ったという。巨大な海のダンゴムシ。大きくなると全長35センチにもなる。正面からみると、映画「スター・ウォーズ」に登場…

日本文学がもう特殊な異国のものでない

(日経「春秋」2014/1/5付) 「日本文学がもう特殊な異国のものでなく、注釈抜きの普通の文学としてヨーロッパでも受け入れられたんじゃないか」。1968年に川端康成が日本人ではじめてノーベル文学賞をとったとき、三島由紀夫。三島自身は63年には「80人の候…

組織を活性化させる才

(日経「春秋」2014/1/4付) 1円の100分の1は1銭。その10分の1は1厘、三井銀行の経営を担っていた中上川彦次郎は、お金の計算が煩雑でしょうがないため、思い切って利息に厘の単位を使うのをやめた。預金の利息は厘の位を銭に切り上げ、貸金は厘を切り…

「友人」だと思う人の数は年々増えている

(日経「春秋」2014/1/3付) 懐かしい友や新たな知り合いから思いがけなく届いた。昨今は賀詞を電子メールで交わしたり、ネット上で公開したりという人も多い。博報堂生活総合研究所の調べでは、私たちが「友人」だと思う人の数は年々増えているそうだ。平均…

変わる世界に長期の国家戦略を

(日経「社説」2014/1/1付) 2014年、日本は本当に、大きな戦略を立てて、ちょっと長い視点で、復活への道筋を整えていく必要があるだろう。世界の変化の最たるものは、世の中に影響力を及ぼす地域が米欧からアジアへと移行、その傾向に拍車がかかっているこ…