2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

古本、汚れたればこその懐旧だろう

(日経「春秋」2012/10/31) 山口瞳は、中野重治の文章は自分とリズムが合うと書いて続けた。「野球の投手が、調子がよくて快いテンポで投げているときは野手は守りやすいという。それと似たような快感があった」。古本に前の持ち主の書き込みや傍線が見つか…

予知がいつ実用化するか現在は答えられない

(日経「春秋」2012/10/30付) 火星人の地球への来襲、1938年の今日の、H・G・ウェルズのSF小説「宇宙戦争」をもとに、当時23歳だったオーソン・ウェルズがハロウィーン前夜の特別番組として企画した。シカゴの天文台の科学者が「火星で光を伴うガス爆発…

復興しないったってさせてみせらあ

(日経「春秋」2012/10/29付) 「復興の魁(さきがけ)は料理にあり」。関東大震災ですっかり焼け野原と化した東京の銀座で、ただ1軒、掘っ立て小屋にこんな貼り紙を張った居酒屋が商売を始めた――。水上滝太郎の小説「銀座復興」だ。いま東日本大震災の被災…

若い層から、難しい作品を背伸びして見る気質が消えた

(日経「春秋」2012/10/28付) 映画「ホテル・ルワンダ」、日本での上映予定はなかったが、映画好きの署名活動で公開が決まり、大ヒットに。6年前の話だ。テーマは重く、俳優の知名度は低い。先陣切って上映を引き受けたのが、前年末に開業した東京・渋谷の…

最高指導者を選ぶ仕組みが200年以上も変わらずに続いている

(日経「春秋」2012/10/27付) ボクシングになぞらえるなら、最終ラウンドも残り1分を切ったのに判定が全く読めない。10日後に投票が迫った米国の大統領選挙、大接戦だ。いや、泥仕合かも。歴史を振り返ると、米大統領選そのものは実に整然と行われてきたこ…

18歳という若さは留学時の平岡と重なり合う

(日経「春秋」2012/10/26付) 最初に野球殿堂入りしたメンバーをみると、沢村栄治、正力松太郎らに交じって平岡熙(ひろし)という人がいる。「日本野球の祖」とされる人物だ。渡米を16歳のとき、チームの心をひとつにして白球を追う異国のスポーツのとりこ…

「アラブの春」後の混乱を放置するな

(日経「社説」2012/10/25付) 独裁者を倒すより、その後の新しい国造りのほうが道は険しい。中東に広がった民主化要求運動、いわゆる「アラブの春」も例外ではない。長期独裁政権が崩壊した国々は今、様々な困難に直面している。国際社会はこれを放置しては…

現代はなにかと「安全宣言」が注目される時代だ

(日経「春秋」2012/10/24付) 現代はなにかと「安全宣言」が注目される時代だ。鳥インフルエンザ、BSE(牛海綿状脳症)、遊園地のジェットコースター、大量リコールの欠陥車問題、最近はオスプレイ配備、原発再稼働をめぐる安全宣言。2009年のイタリア中…

何が何でも犯人を挙げようと焦りすぎたのだろうか

(日経「春秋」2012/10/23付) ハッカーと聞けば、今は誰もが不気味な犯罪者を思い浮かべる。ハッカー文化の発祥の地は、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)だといわれる。大学の記録に残る歴代ハッカーの“犯罪歴”が面白い。学内のドームのてっぺんに…

企業内保育所を広げるには

(日経「社説」2012/10/22付) 社員のために企業が設ける保育所への国の助成制度が見直されることになった。企業内保育所は一企業が単独で設けると運営費の負担が重くなり、利用者の安定的な確保も難しくなる場合がある。このため複数の企業が共同で施設を設…

企業の力ってすごいな、と思った

(日経「春秋」2012/10/21付) 「情報発信をしなくても、皆に目を向けてもらえた時期は終わった」。お年寄りの現状などを訴えたい。でも方法がない。看護師のボランティア団体「キャンナス」にこの夏、大手損害保険会社が社会貢献活動として送り込んだ若手社…

食糧問題にもっと危機感を

(日経「社説」2012/10/20付) 世界の主要国が16日、ローマで食糧価格高騰への対応策を話し合い、農産物の増産や需給情報の共有などに協調して取り組むことで合意した。しかし、食糧需給への影響力が大きい米国やロシア、中国の閣僚は参加せず、共同声明も出…

眠っている間に記憶に犯行を刷り込まれた

(日経「春秋」2012/10/19付) 「睡眠と記憶は脳のなかの別々の神経回路がコントロールしている」。脳のある部分に情報を入力してやれば眠っているのに眠りを妨げられることなくものを覚えられる……。もちろん、一夜明けると知らぬ間に博識になっていた、など…

とにかく縁をつくる

(日経「春秋}2012/10/18付) 破格の安値である。1867年の今日、米国がロシアから購入したアラスカの値段は、土地1エーカー当たりで2セント、現在の為替相場で単純計算すれば1ヘクタールでわずか4円弱だ。アラスカほどではないが、日本でも1平方メート…

フクシマの影響ではないかと思う

(日経「春秋」2012/10/17付) 芸は「粋」と「不快」しかない。そう著書に記したのは昨年死去した立川談志師である。舞台は週末の国営テレビの人気バラエティー番組。仏代表に勝ったサッカー日本代表のゴールキーパー川島永嗣選手の腕を合成写真で4本に増や…

論理軽視社会の主犯は、政治家と評論家だ

(日経「春秋」2012/10/16付) 先週亡くなった作家の丸谷才一さんが、スピーチについて語っている。ある企業の社長が、取引先のパーティーで祝辞を述べた。諸先輩を差し置き壇上に立つおわび。依頼を受けた経緯。「最初は辞退したのですが……」との釈明。日本…

「睡眠学習」できるかも? 熊本大、脳の仕組み解明

(日経 2012/10/15) 熊本大発生医学研究所の粂和彦准教授(50)らの研究グループが、脳内で「睡眠」と「学習」が全く別の独立した神経回路で制御されていることを、ショウジョウバエを使った実験で明らかにし、14日付の米科学誌ネイチャーニューロサイエン…

受賞が新たな苦闘の始まりとなった2人

(日経「春秋」2012/10/14付) 2人が結婚しようとしたとき、夫となる男性は事実上、獄中にあった。法的な手続きを進めるのは、ずいぶん大変だったらしい。そして16年。夫となった男性は今、ふたたび獄中にある。夫が出獄している時でも逆境続きだったが、夫…

キンモクセイ、匂いが記憶を呼び覚ます

(日経「春秋」2012/10/13付) 今年はまだキンモクセイの香りが漂ってこない――。東京あたりではそんな声をよく聞く。それでもきのう、近所の小学校の裏手を通りかかったら思いがけずその香りに出合った。ああ1年ぶりだ、去年の今ごろは……と忘れていたことを…

「言う莫かれ」

(日経「春秋」2012/10/12付) 「言葉なんかおぼえるんじゃなかった/言葉のない世界/意味が意味にならない世界に生きてたら/どんなによかったか」、田村隆一の詩「帰途」の冒頭。言葉なんか与えるんじゃなかった――。と考えているのは中国の指導部かもしれ…

きょう都内の老舗百貨店が出陣式

(日経「春秋」2012/10/11付) 「接待課長」と異名をとる会社員を主人公に据えた小説が筒井康隆氏の「俗物図鑑」では、取引先へのお歳暮を選ぶのも彼の役目。きょう都内の老舗百貨店が出陣式を開き、流通業界のお歳暮商戦が始まる。経費節減に法令順守が重な…

人は成功体験を披露したがる傾向がある

(日経「春秋」2012/10/10付) ドイツの人口3万の某市市庁舎に大尉率いる歩兵十数人が突然やってきたのは1906年10月16日夕である。皇帝の命により、と言って市長を逮捕し、金庫の中身を差し押さえる。警察に指示して市長をベルリンに護送させると大尉はどこ…

研修医時代は指導教官の足手まとい

(日経「春秋」2012/10/9付) iPS細胞はまさに再生医療の切り札、ワイルドカード、生みの親である京大教授の山中伸弥さんがノーベル生理学・医学賞に輝いた。ここまで決して順風満帆だったわけではない。柔道などで10回以上骨折したことからお世話になっ…

どんぐりころころ泣いてたら、仲良し子リスが飛んできて

(日経「春秋」2012/10/8付) 使わない文房具が引き出しにあふれている。その中に紛れてドングリが一つ。机の中に小さい秋がある。童謡の「どんぐりころころ」に、幻の3番の歌詞があるのをご存じだろうか。泣いてドジョウを困らせるのが2番。それで終わり…

IMF・世銀総会が、また東京で開かれる

(日経「春秋」2012/10/7付) 好きな料理を自分で取りに行くビュッフェ、この形式を取り入れたのが、48年前に東京で開かれた国際通貨基金(IMF)・世界銀行の年次総会だ。大野功統元防衛庁長官が自らのホームページで書いている。菜食主義者もいれば豚肉…

コツコツと努力して最後には故郷に錦を飾った古川の生涯

(日経「春秋」2012/10/6付) 人気アニメ「けいおん!」の高校のモデルといわれる滋賀県豊郷町の旧豊郷小学校校舎の旧校舎が有形文化財になるそうだ。1937年の白亜の殿堂といわれた。私財を投じて建てたのは同町出身で丸紅専務を務めた古川鉄治郎である。10…

愛すべき不良たちが初めてレコードを出したのが、50年前のきょう

(日経「春秋」2012/10/5付) 文字通りの百万言が4人組に費やされてきた。草野心平の言、「ビートルズはイギリスという地球のシニセに生まれた言わば不良息子だった」。愛すべき不良たちが初めてレコードを出したのが、50年前のきょうである。シニセの家風…

老舗ホテルが下水道料金をごまかし

(日経「春秋」2012/10/4付) 池波正太郎は、神田駿河台の山の上ホテルが大好きだった。晩年の「銀座日記」などを読むと、そのお気に入りぶりがよくわかる。常連はほかにも川端康成、三島由紀夫、檀一雄……とならべれば、文人好みの独特の雰囲気が知れよう。…

人と文化への深い愛情に打たれる

(日経「春秋」2012/10/3付) 20年前。独立間もないボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボは、激しい民族紛争の焦点となっていた。その混乱のなか、市内の図書館で保管されていた1冊の本が、行方不明になった。「サラエボ・ハガダー」という。その時代の…

大臣職が政治家の箔づけでしかないのか

(日経「春秋」2012/10/2付) 6月4日の就任から4カ月足らず。留任の方も多々いる。「もう年だからなるべく外してほしい」と言っていた滝実前法相は首尾よく外れた。しかし、念願の初入閣だったはずだ。心残りも多かろう、と思うのが素直だろう。まして短…