かえしておくれ今すぐに

  • (日経/春秋 2012/6/30付)1963年に東京の下町で起きた吉展ちゃん誘拐事件は戦後史に残る出来事だ。警察は脅迫電話の「声」の公開に踏み切る。事件をめぐる国民的関心は沸騰した。クリーニング店などの団体は御用聞きついでの情報収集作戦を展開。東京電力東京ガスもこれにならい、郵政省は全国の郵便局に捜査協力を命じた。ザ・ピーナッツの「かえしておくれ今すぐに」という曲がちまたに流れたのは、発生から2年が過ぎるころだった。この歌はレコード各社の競作となったが、切々と力強く訴える姉妹のハーモニーが世に浸透したようだ。人気絶頂だった2人ならではの、社会との共振であったろう。その姉の、伊藤エミさんが亡くなった。曲の発売から数カ月後、犯人は逮捕され、吉展ちゃんは悲しい姿で見つかる。犯人の男の恵まれない生い立ちもまた昭和の苦難と深く結びついていた。高度成長期の華やぎも哀(かな)しみもこもごもに歌った姉妹デュオの軌跡をたどりながら、時代の痛みを思い返している。

=>(JN)モノクロTV、灰色の空、匂いのする川、所得倍増、昭和が遠くなっていく。空は青くなり、川は青くなり、所得は増えなくなり、貧富の差は未だに改善されない。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO43196560Q2A630C1MM8000/