甘く濃厚な風、はるか昔の光景がいきいきと眼前に広がる

(日経「春秋」2014/3/17付) 香りに呼び止められた。夕暮れの街路を見回すと、薄紅の沈丁花が暗がりにぼんやりと浮かぶ。甘く濃厚な風が通り過ぎたとたん、はるか昔の光景がいきいきと眼前に広がる。團伊玖磨さん、円い顔が窓越しに書斎の中をのぞいたのでびっくりした。推理するうちに、花の香りと60年前の情景とのむすびつきに気がつく。そして庭の花陰に潜んでいた3歳の自分の魂が興味津々、その後の人生の軌跡、日々の記録を読みにきたのだと想像して納得する。犯人は「プルースト効果」だったのかもしれない。近年、脳の記憶をつかさどる部位、海馬との関係が分かって、香りによる認知症予防などの研究も進んでいる。先週、環境省で専門家が「PM2.5」対策を確認した。大気を汚染し、肺の病気を招きかねない。この微小物質を含む黄砂が中国から本格的に飛来するのはこれから。花粉の飛散も始まり、通りには、見えない粒子があふれる。予防は大切だが、防護マスク越しでは、春の郷愁を誘い出す、鮮やかな香りを逃しかねない。
(JN) 当方は花粉症であるため、これからの時期、せっかくの花たちの香りを存分にその香りを感じることができな、残念である。それでも、時に感ずるその香りは、脳裏を過る。しかし、「プルースト効果」のように鮮明に過去を呼び戻すことはできない。自分の子供のころの野原や花畑での香りは、頭のどこかに仕舞い込まれているが、もう日本ではその香りを感じる機会は少なくなっていくのだあろうか。これは、これから長く生きて行く若者たちに申し訳ない。我々は、国家予算も、原発も、生活環境も、未来に託し知らん顔するしかないのであろうか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO68394870X10C14A3MM8000/