(日経「春秋」2013/5/22付) お客が来るからと、饅頭(まんじゅう)を20個買ってくるよう少年が母親から頼まれる。近所の菓子屋には饅頭がちょうど20残っている。しかし、店主に「よかったな。きょうはもうこれきり作らない」と聞かされた少年は、「間違えた。やっぱり18個だった」と言って18だけ買った。そう、下町は大人にも子どもにもそんな感じあったな、と心に残った。自分さえよければ、でなく、周りへの目配りが無理なく利いていた、と字にすれば少しやぼったい。そんな下町に東京スカイツリーができて都心の景色が変わった。開業からきょうで1年、目算をはるかに超える人を集めてスカイツリーは立派な名所になった。もちろん人気は天空からの眺めだろう。でも、ときに界隈(かいわい)を歩いてみてもいい。どこかで20個頼まれた饅頭を18だけ買う「下町の感じ」に出合えればめっけものだ。これ、展望台からは見えないし、もうほとんどないのだから。
(JN) 洒落ていてまたおせっかいでもあったり、町に住む者同士が他人ではない世界があった下町、今はどうなのであろうか。他人行儀で立派なスカイツリーは下町の住民として認められているのであろうか。人気はあるのに、下町にはあまりその利益を与えていないようでもある。スカイツリーだけが良いのでは困ったものである。それに下町も変わってしまったかもしれない。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO55323240S3A520C1MM8000/