井上ひさしは、いかに笑いに心血を注いでいたか

(日経「春秋」2013/5/20付) 苦しみや悲しみは人間が生まれ持っている。でも、笑いは人の内側にないものなので、人が外と関わって作らないと生まれない。井上ひさしはそう言った。希代の戯作者の足跡をたどった「井上ひさし展」が県立神奈川近代文学館で開かれている。笑いがいかに重大な関心事だったか、いかに笑いに心血を注いでいたかにあらためて圧倒される。笑いに対する感覚をつづった80歳の男性読者のカナダでの体験談である。空港のチェックインで、日本人がスーツケースを預けたら女性の係員が重さのあまり手を滑らせた。それを見て日本人がクスリ笑うと係員にものすごい形相でにらまれた。そのくせ彼女は、別のカナダ人とすぐにこやかに話し始めている。自分に関係ない第三者を笑ってはいけないというルールだったという。笑う方が自然でも、人は自然のままではいけないと幼いころから教えられている……。なるほど、笑いを作ることの難しさがよく分かる。「人間の最大の仕事」の言、誇張に聞こえない。
(JN) 心から笑うころは嬉しいが、なかなかそういう笑いがない。自分もそうであり、他人を心から笑わすことはとても難しい。虚栄心の特効薬は笑いであり、そして本質的に笑うべき欠点は虚栄心である、などとどこかで聞いたことがある。ベルクソンの『笑い』でも読んでみますか。否、その前に近代文学館へ行きましょう。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO55229790Q3A520C1MM8000/