(日経「春秋」2014/9/23付) 03・3581・5599――。このファクス番号は、公正取引委員会の審査局の談合にかかわった企業が「自首」するための専用回線である。不正に加わった企業がみな口をつぐみ続ければ、談合そのものが発覚しないかもしれない。だがこのファクスで最初に自白をした会社は刑事告発を免れ、課徴金も全額免除される。これに似た形の司法取引が、刑事事件の捜査にも導入されることになった。たとえば容疑者が共犯者の犯行について話す見返りに、自分の刑をまけてもらう。しかし、心配なのは、他人に罪をなすりつけ、自分が助かろうとする容疑者に乗せられはしないかという点であろう。人の弱みや心の隙を巧みに突く犯罪者より、捜査側の方が取引上手である保証はない。新しい仕組みを設けたために新しい冤罪が生まれたのでは、元も子もなくなる。制度作りの作業をじっくり見守りたい。
(JN) 日本人は、良いことも悪いことも和を大事にしてきた。はっきりしないつながりの和の文化の日本、方程式ではなく足し算でできている。この足し算の集合の中から、この和を崩す者は、その後、引き算されるという和の世界が今後、どのように変化していくのか。曖昧な友達の和もあれば、強力な結託の和もあるこの融通の和の文化に司法が入り込み、どんな変化が見られるのか。これも、取引と言われているから、我々は、人と人のつながりもいわば巨大な商品取引の中に埋もれて流れて行くのである。その中で、商品価値のあるものが高く売られていくということなのであろうか。それは、現在の世界の流れであろうが、免罪符が誤った価値で取引され、そこに後で高くつく冤罪が発生させる短期的手柄欲を生むことのないことを祈る。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO77425860T20C14A9MM8000/