(日経「春秋」2014/9/6付) デフォルト騒動に揺れるアルゼンチンを訪ねる機会があった。ブエノスアイレスは緊迫に包まれている……と、そんな光景を想像して身構えていたが、真実はその逆だった。実にのどかな空気である。この国では貪欲な米国のハゲタカ・ファンドが悪者で、自分たちは被害者である。ゴネ得で一獲千金を狙う連中など懲らしめてやるべきだ。当局者からそんな答えが返ってきた。その誇り高きタンゴの国で、新種の恐竜の化石が見つかった。ゾウ12頭分という大きさに、研究者は腰を抜かしたという。8千万年前の太古の地上では生を謳歌したが、環境の変化で洪水が起こり、泥沼にはまって絶滅したらしい。鎖国しても生存できるという余裕なのか。アルゼンチンは外からの批判を気にする風でもない。デフォルト騒動が収束したとしても、世界経済の現実に気づかなければ、化石が発見された巨大恐竜と同じ運命をたどりかねない。
(JN) 当事者にとっては、成長するには時間がかかり、没落はあっという間であるが、何事もその兆候があり、そこから綻びて行く。私たちは地球上でのことが少しずつ分かってきたわけだが、この地球上において、お互いに有機的に関係仕合、孤立しての行動をしようが大きな資本の枠の中に呑みこまれて行く。「強大な恐竜」は滅びても、「強大な商品の塊」は滅びることはなく、全てを商品化して巨大化してゆく泥沼である。もう、この泥沼に足をいててしまった以上、個々から逃れることはできない。もがいてももがかなくても、静かに深みに入ってい行く。近くに掴まるものはないのか。アルゼンチンのことは他人事ではない、ここで何かが起きれば、その波紋はアベノミクスへもやって来る。
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