誇り高き盲腸

(日経「春秋」2014/4/12付) 誰が言いだしたのか「盲腸線」という言葉がある。鉄道の本線からちょこんと突き出した支線のことだ。こういう路線の大半は乗客もごく少ない無用の長物と見なされ、それが人みな腹中に抱える盲腸と同じ、というわけだろう。正しくは盲腸から突き出ている虫垂なのだが、最近の研究では役立たずどころか意外に大切な組織だとわかってきたそうだ。虫垂は免疫細胞をつくって大腸や小腸に供給し、腸内細菌のバランスを保っていることを大阪大などのチームがマウスで明らかにしたという。失って初めて知るそのありがたさだが、かつて廃止された盲腸線にもそうした効用は少なからずあったろう。岩手県第三セクター三陸鉄道北リアス線南リアス線の全線で運行を再開した。東日本大震災で大きな被害を受けながら復活できたのは、鉄道への熱い思いがあったからに違いない。南北リアス線をつなぐJR山田線は不通のままだから、三鉄はいま盲腸線状態だ。けれど被災地を元気にする、誇り高き盲腸である。
(JN) 虫垂炎になった場合、切り取ってしまうこともあれば、薬で対処する方法もある。鉄道だけでなく、世の中、様々な盲腸がある。その盲腸が腫れ上がるにはそれなりの原因があるわけで、そこが不要なわけではない。バッサリ切ってしまうのは、エイヤーでやってしまうのであろうが、その原因を絶たねば、また次の盲腸を発生させるのであるから、切る前に十分に原因解明をしたい。私たちの体の中でけでなく、私たちがつくったものは必要だから作ったのであり、無用の長物ではないはずだ。時代とともに、その必要性やあり方は変化するわけだから、それに対応していく力が必要である。三陸鉄道のように、姿を変えて運営をできるその力は素晴らしい。話は突然だが、では原発はどうすればよいのであろうか。バッサリ切ることもできない、この代物や厄介であり、盲腸ではない。では何であろうか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO69774490S4A410C1MM8000/