理性と感情が同居する築地の熱気

(日経「春秋」2014/1/7付) 築地市場の初セリで、去年は1億5540万円の値が付いたマグロが、今年は736万円だった。値段は20倍も違うが、マグロはマグロである。味に20倍の差があるわけではない。去年まで金額がつり上がっていたのは、すしチェーンの「すしざんまい」と香港資本の「板前寿司」が猛烈に競り合っていたからだ。日本と香港の対決が4年ほど続いたが、今年はついに香港が戦いから下りた。市場のゲームには、経済の不思議が隠れている。漁師は宝くじ並みの大金を手にし、競り落とした会社にとっては宣伝効果が大きかった。すし店の客も初セリを話題に喜んでマグロを食べた。元気な会社同士、明るく意地を競ったマグロ狂騒曲がひとまず終わり、初セリはそれまで通りの穏当な値段に収まった。知名度も十分に高まったから、費用対効果を考えれば収束の潮時だったのだろう。理性と感情が同居する築地の熱気が、日本の経済全体に広がるといい。
(JN) マグロは美味しいから食べるのであり、だから値が上がりまた競争により値が上がる。まったく同じものではないが、同類の品が昨日と今日では違う、昨年と今年では違う。マグロばかりでなく国が価値を保証している円でさえ日々価値が変化する。この変化を現場は読みながら行動する訳で「板前寿司」はどんな読みをして今回は狂騒をしまいと競争に乗らなかったのか。ここでは尖閣列島靖国問題も関係なく、市場原理が働いているのであろう。新聞ネタもキナ臭い問題ではなく、活気あふれる経済の上ネタにしてもらいたいが、ものの価値が日々変化することがドラマであり、それは悲劇もあるのだ。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO64956220X00C14A1MM8000/