僕の前に道はない/僕の後ろに道は出来る

(日経「春秋」2014/1/31付) 高村光太郎の「レモン哀歌」、死の床の智恵子がレモンの刺激によって「もとの智恵子」に戻る。さて、マウスの細胞を弱酸性の溶液に浸すだけで、さまざまな臓器や組織の細胞に育つべく「初期化」されるという。目からウロコのこの大発見は全世界を興奮させている。開発をリードしたのは理研小保方晴子さんだ。生物学の常識に挑んで実験を続けた。笑われもしたが、いろいろ試すうちに弱酸性の液がその力をもつことを突きとめたという。30歳の女性研究者の、しなやかな発想の勝利である。もっともこの万能細胞がヒトでも作製可能か、再生医療に役立つようになるか、今後の研究は多難だろう。「僕の前に道はない/僕の後ろに道は出来る」。光太郎の「道程」を胸の底に、惜しみないエールを送る。
(JN) 常識に囚われることなく、また不当な扱いに屈することなく、志を通した若き研究者は美しい。道なき道を行くことのその力と勇気に感服する。年寄りは今を守る。その年寄りが多く、また若者も年寄りみたいな日本でこの初々しさは力強い。様々な世界で若者は今に疑問を持ち、立ち上がって欲しい。それとも、今の日本に刺激が足りないならば、弱酸性を学校給食にでも入れますか?
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO66150690R30C14A1MM8000/