「上野東京ライン」

(日経「春秋」2013/12/13付) 忘年会のカラオケで、今宵(こよい)も名曲「あゝ上野駅」を歌うおじさんがいるだろう。ならばと部下が選ぶのは「木綿のハンカチーフ」か。上野と東京。この2つのターミナルは昭和歌謡の時代が遠く過ぎてもそれぞれの雰囲気を損なわずにいる。再来年の春、そういう両駅を結ぶ新線「上野東京ライン」が開通することになった。わずか3.8キロの新線だが「北」と「西」の歴史的な出合いにほかならない。いずれも始発駅の地位を失い途中駅と化すけれど、気になるのは上野だ。新幹線ターミナルの座を奪われ、こんどは在来線始発駅としても影が薄くなる……。などと考えつつ年の瀬のこの駅を歩けば、中央改札に掲げられた猪熊弦一郎作の巨大壁画「自由」が世の有為転変を見下ろしている。変わりゆく駅と人を見ている。
(JN) ますます東京に交通の中心が移って行くのであろうが、それはそれである。その駅々にそれぞれの個性があり、私たちはそれを愛する。上野駅には東京駅にない文化の匂いがある。上野の山には、西郷さんがいて、コンサートホール、美術館、博物館、動物園などなど。北の玄関として初めて訪れたり、故郷に帰る出発点としての思い出もある。世は変化するのであるから、それをNoとは言えない。どんなにとか言いが激しく変わろうとも、「都会の色に染まらない」心を持ちたい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO64009680T11C13A2MM8000/