謎の芸術家は世界と時間をとらえる斬新な技法を教えてくれた

(日経「春秋」2014/7/15付) 日付は無数の光景でできている。ふだんは忘れている数字を眺め直すと、音や光と一緒に歓(よろこ)びや悲しみも蘇(よみがえ)る。そこには人間の記憶と生きた証しが凝縮している。かつて訪れたフランクフルト現代美術館。年月日だけを大きく描いた画布と紙箱がセットの作品をみて驚いたことがある。世界的に評価の高い河原温氏の「日付絵画」だ。その川原氏が81歳で亡くなっていたことが先週末、明らかになった。普通の絵と違い、文字や記号で表現する概念芸術の第一人者。私生活も消し去って「自分の不在」(宇佐美圭司「20世紀美術」)を表現していた。日付が呼び覚ます様々な情景には豊かな広がりがある。どんな時代か見当もつく。悠久の時の中で今日は一日しかない。古代ローマの詩人は「この日をつかめ」と言った。謎の芸術家は世界と時間をとらえる斬新な技法を教えてくれた。存命なら、今月は何日を選んで描くだろうか。
(JN) 河原温氏については、当方、無知で何も知らない。朝日新聞には「60年代半ばからニューヨークを拠点に活動し、1色に塗られたキャンバスに日付だけを記した「日付絵画」などで知られた。メディアにはまったく登場せず、動静や私生活が不明の芸術家として知られていた。作品の一つに「I AM STILL ALIVE」というコンセプチュアル・アートがあり、自身のものとみられるツイッターでは同じ言葉をほぼ毎日、ツイートしていた。」とあったが、よくわからない。今日という日は今日しかないが、1年経つと同じ7月15日はやって来るがそれは2015年の7月15日で、違い日でもある。でも、今日という2014年の7月15日に誰かに記念すべき何かがあれば、来年の7月15日は誰かの記念すべき記念日になる。アリスの世界のように「何でもない日」は無い。「自分の不在」のこの日付は、何を捉えてくれるのか。私たちは、一日一日を大事にして行かねばならない。いや、訳が分からないことは、芸術家に任せた方が良いか。私生活も消し去った芸術家、川原温氏のご冥福を祈ります。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO74258870V10C14A7MM8000/