ウソらしきウソはつくとも、誠らしきウソはつくな

(日経「春秋」2013/7/13付) 家来に酒を禁じた豊臣秀吉の前に、曽呂利新左衛門だかが真っ赤な顔をして現れた。「飲んで来たな」「いや、寒いので焚(た)き火にあたって参りました」「ウソをつけ。かいでみるぞ……いや臭い」「さようでしょう。酒樽(さかだる)を焚いてあたりましたから」。そんな逸話を引いた民俗学者柳田国男が、「ウソらしきウソはつくとも、誠らしきウソはつくな」という言葉を紹介している。高血圧治療薬「ディオバン」の臨床研究データを操作していたと京都府医大が認めた。ほかの薬よりも脳卒中狭心症を減らせるという結論がウソだったらしい。生きるために毎日毎日、面倒くさい思いをして薬を服用している人がいる。その薬を処方する医師がいる。そういった人々すべてがバカにされている。大学は誰が不正を働いたかは不明だと釈明したというが、これは「ウソらしいウソ」としか思えない。結局は見破られ……誘われるのはもちろん、笑いでなく怒りである。
(JN) 笑えるウソは、双方の期待通りであろう。しかし、世の中は、笑えないウソが蔓延しているのか。生命や健康に係るウソを実しやかにつかれては、我々はお手上げだ。裏では騙した方は大笑いをしていたのか。京都医大の関係者は、ウソをウソと証明するだけが仕事ではなかろう。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO57314770T10C13A7MM8000/