「洛陽紙貴」、トクヴィル『旧体制と大革命』

(日経「春秋」2013/7/7付) 晋の首都・洛陽で、ある時に無名の文人の書いた詩が大評判になった。それを書き写すため人々は争って紙を買い求め、紙の値段が高騰した。この故事から生まれた成語が「洛陽の紙価を高める」、漢文では「洛陽紙貴」と書くらしい。中国メディアでこの言葉を目にしたのは、今年はじめ、トクヴィルの「旧体制と大革命」という本が売れている、と。そして半年たった今でも、平積みにしている書店は多い。共産党政権の最高指導部の一角を占めている王岐山氏が推薦したことが、一つのきっかけになっているようだ。狙いは、うかつに政治改革をすればフランス大革命のようなことになりかねない、と言いたいのだ。保守的な勢力はこんな見方だ。逆に、政治改革を進めなければ革命が起きかねないのだ、という受け止め方もある。いずれにしろ革命前夜めいた切迫感が伝わってくる。気のせいだろうか。
(JN) 中国は、資本主義化が進みつつあるなかでも、権力や財力や名誉が偏った者たちに握られており、それを守ることが体制側ではない多くの者が不満を蓄積している。その蓄積がどのような力学を産むのか。外から見ていれば、ロシアと同様に、革命時の皇帝を夢見た権力構造であるように思える。汚職が栄えるこの国は紀元前から変わっていないのであろう。農村から育った中国共産主義にはどれだけの力があるのか。王岐山氏がトクヴィルの大著をどう利用しようと、政治改革派が何としようと、資本主義の大小の波が上海や香港の海岸からチョモランマまで押し寄せ浸して行くのであろう。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO57076190X00C13A7MM8000/