(日経「春秋」2013/3/19付) 彗星(すいせい)がやって来る。いつ、どこに現れるか分からない。夜空の一点がいきなり輝き始めるのだから、古代人が不吉な兆しと考えたのも無理はない。アリストテレスは「あれは星ではない」と断じたという。パンスターズ彗星は、2年ほど前に発見されたばかりの新人である。今月が太陽に最も近づく時期で、世界中から次々と観測の画像がネット上に集まっている。南半球を旅したとき、ふと夜空を見上げて、底知れぬ不安に駆られたことがある。己の感覚が狂っているのか、星が狂っているのか。天空の営みは不思議な力で人の心に作用している。数式のように正確に天体が動き、不変の座標に包まれて、人は穏やかな日常を過ごす。その秩序を破るのが彗星である。パンスターズ彗星は、もう二度と巡って来ないそうだ。何か新しいことを始める良い機会かもしれない。
(JN) 我々は秩序があることに安心して生活している。その秩序を乱すのは不届き者である。彗星のような者が世の中に居り、それが困った奴であったり、面白い奴だったりする。枠からはみ出た者は目立ち、その価値以上に良くも悪くも扱われる。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO52975050Z10C13A3MM8000/