ほんとうに出会った者に別れはこない

(日経「春秋」2013/3/28付) 東京では4月の入学式には盛りを過ぎてしまうだろう。日本の花といえば桜だというけれど、別れをせかすようなこの花の姿に胸が切なくなることもある。転勤や卒業の季節である。花吹雪の下に流れる涙がある。「あなたの名前を知り、あなたの仕事を知りやがてふろふき大根が好きなことを知り……そうして私たちは友達になった」(谷川俊太郎)、仲がよい同僚や同級生といっても、もとは赤の他人だった。ならば出会いの舞台は多いほどよい。ベートーベン第9交響曲で「東アジアをつなぐ」という構想が開花しそうだ。年末にはハノイに住む指揮者の本名徹次さんが、ベトナム国交響楽団で棒を振る。この楽団は、谷川さんの詩の朗読が付いた日本の現代曲を演奏したこともあるそうだ。「ほんとうに出会った者に別れはこない。あなたはまだそこにいる」。
(JN) 桜はもう散ってしまうであろうが、4月1日には夢ふくらました新入生がやって来る。彼女ら彼らは、どんな出会いをするのであろうか。楽しみでもあり、新たなる環境に溶け込めるのか、心配でもある。そんなとき、第九のように共有できるものがあると良い。それがあっても、ここまで来てくれない者たちがいる。この者たちの心を二分咲きほどでも開かせるようにしたい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO53311320Y3A320C1MM8000/