「火焔(かえん)太鼓」か、はたまた「井戸の茶碗(ちゃわん)」か

(日経「春秋」2013/3/23付) 「火焔(かえん)太鼓」か、はたまた「井戸の茶碗(ちゃわん)」か。落語の国のおとぎ話を地でいくできごとがニューヨークであったそうだ。ガレージセールで6年前、たまたまのぞいた人が幸運の女神の前髪をつかんだのだろう。茶碗を3ドルで買った。それがじつは中国・北宋時代の白磁の逸品。先の競売で222万5千ドルで落札されたという。ざっと300円が2億円に化けたことになる。「世に二つという」名器だと。この白磁と似た大きさ、柄を持つ同時代の器はロンドンの大英博物館にある一つしか確認できていないと報道されている。作家の河野多恵子さんはニューヨークにいたころ、今回の競売があったサザビーズに時々行った、と随筆に記している。にぎやかでせわしい競りの様子も面白いが、見ていて安い高いの私の感覚はおかしくなった、という箇所になるほどと思った。机の湯飲みをもう一度眺めてみる……までもない。おとぎ話とは縁がない。
(JN) 幸運は行いが良い人に来るは限らない。拾いものは善悪関係なくやって来る。この幸運を得た人は、今後の価値観がどのように変化して行くのであろうか。そこが面白そうである。否、悲惨になることもあるので、面白いなどと記してはならないかもしれない。人間、バランスが崩れると大変である。それは別として、自宅に帰ったら、茶碗を眺めてみよう。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO53125510T20C13A3MM8000/