文化の越境

(日経「春秋」2012/11/30付)
 日本語の書き言葉には緊張感が宿っている――。米国に生まれ日本語で書く作家として知られるリービ英雄さんに、この国の言葉の魅力をうかがったとき即座にこんな答えが返ってきた。「大陸の文字を変形して島国の感性をあらわす仮名をつくった。文化の越境です」。模倣と創造があやなす日本文化を象徴しているのかもしれない。ところで、平安京の貴族の屋敷跡から出土した9世紀後半の土器片に「かつらきへ」(葛城へ)などと書いてあったという。万葉仮名がだんだん崩れて平仮名ができていった道筋を知る、新たな手がかりになることだろう。漢字にはない趣を楽しみ、いたずら書きでもしたのだろうか。いま世界で人気の日本的な「カワイイ」文化には平仮名の丸っこい形も一役買っているようだ。越境して姿を変えた文字がまたボーダーをこえて愛される。不思議な文字の、衰えぬ生命力である。
(JN) 世界の端にあった日本、世界の文化が遅れてやってきて、終着点の日本で自分たちの都合に合わせていくことができた。自分たちだけが分かれば、過ごし安ければ良かった。それが日本の文化になり、今やグローバル社会でひらがなが、なによりその珍しさか。文化の越境となったのか。しかし、日本人が生き抜くには、「カワイイ」島に閉じ籠もらず、人間も越境してまたどこからか新たな材料を仕入れに行こう。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO48987480Q2A131C1MM8000/