中央値は「個々の事例とはほとんど無関係」

(日経「春秋」2012/11/24付) 2002年に亡くなった米国の進化生物学者、スティーブン・J・グールドは、文系の人も楽しめる科学エッセーで世界的に知られた。数ある著作のなかで、本人が「溺愛するわがまま息子」といとおしんだ1冊が「フルハウス」だ。この本は生命の歴史と米大リーグの歴史を同時に論じている。それは切実な個人的な体験の紹介が胸に迫る。30年前。40歳だったグールドは不治の病だとの宣告を受けた。グールドは、その病気の診断から死亡までの日数の中央値(メジアン)が8カ月という「残酷な事実」を知った。だが、生物学者として育んでいた統計学の知識と素養を生かして、前向きにとらえ直すことに成功した。「抽象的な値」にすぎない中央値は「個々の事例とはほとんど無関係」だ、と。そんな数字は抽象的で自分には直接関係がない、とグールドは悟ったわけだ。そして中央値よりずっと長い日々を生きた。「フルハウス」もその間に生まれた。
(JN) 我々も中央値に騙される。数値というものは抽象的で感情を入れない客観的なものであるようで説得材料に使うが、それはみんなの意見を聴いてつまらぬ結果を出すようなものである。それはともかく、当方はスティーブン・J・グールド氏の著作では「ダ・ヴィンチ二枚貝」しか接していないので、これを機会に「フルハウス」にトライしたい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO48766040U2A121C1MM8000/