学ぶ側の度胸や出会いが人を本物の勉強に向かわせる

(日経「春秋」2014/11/28付) 戦争中、英語を使いたくてたまらない14歳の中学生が、意を決して捕虜収容所を訪ねる。「赤鬼青鬼みたいなやつばかり」の中の小柄で柔和そうな若者がほほ笑んできた。少年は話しかけた。What is your country? いまの中学生ならWhere are you from? と言うだろうが、そんなことは知らない。と、捕虜はさらに笑って一言、Scotland.(スコットランド)。「通じたッ」。少年は欣喜雀躍(きんきじゃくやく)、叫びながら家へ走った。英語にとりつかれた少年は長じて同時通訳の名手になる。その国弘正雄さんが84歳で死去した。英語に限らないだろうが、学ぶ側の度胸やふとした出会いこそが人を本物の勉強に向かわせる。国弘さんの思い出話に、そう思うのである。中学時代に国弘さんの本を読んで手紙を書き、返事が来た。「いまどんな勉強をすればいいでしょうか」。「覚えるまでひたすら教科書を音読しなさい」。一度お目にかかりましょう、と続いていた。残念、お訪ねする度胸がなかった。結果、捕虜に会った少年と大差がついた。
(JN) ほとんど勉強をしてこなかった私は、残念ながら国弘正雄先生について知っていることが少ない。ここに書かれていることにしか申し上げられないが、中学生で、捕虜収容所へ行き、相手の言語を使ってみよとするその行動とその意欲に驚かされる。自分が、受験生であった頃、この話に出会っていたら、英語の得意な者になっていたか。そんなことはないであろう。それはともかく、一歩進みだすその努力があるから、その後の自分を作り出すのであろうし、活躍をする幅は広くなり、政治の舞台にまで走り回ることとなるのであろう。それにしても、子供心に、アポロ11号からや指令室から流れてくる言葉を同時通訳して行くあの技は、ワクワクドキドキさせるものであった。
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO80233690Y4A121C1MM8000/