開高は夕暮れになるとローやん片手に

(日経「春秋」2014/11/14付) 美しいスコットランド民謡「ロッホ(湖)・ローモンド」にちなむ「ローモンド」という美しい名のウイスキーが、日本にはあった。なぜか労働組合がつくり、あらかじめ配られた切符で社員だけが買える珍品で、関西の人は「ローやん」と呼ぶならわしだったという。ローやんを日々茶碗(ちゃわん)ですすっていた昭和30年ごろの思い出を開高健が書き残している。英国の名の通ったウイスキーガイドブックがサントリーの逸品を「世界最高」に選ばれた「山崎シェリカスク2013」は昨年、欧州向けに1本100ポンド(当時のレートで約1万6千円)で3千本発売した。「ほとんど言葉にできない非凡さ」「極上の大胆な香り」「豊かで厚みがあってドライで、まるでビリヤードの球のようにまろやか」。開高は夕暮れになるとローやん片手に「ウイスキー用の言葉をタンポポの種子(たね)のように散らすことに従事していた」。種子からは「人間らしくやりたいナ/トリスを飲んで/人間らしくやりたいナ」という有名な一節も育った。長い時が流れ、それでもこのコピーには人の心をとらえるものがある。言葉の不思議だろうか。
(JN) スコットランドでなくても素晴らしいウィスキーはできる。素晴らしいものを世に知らしめるものにコピーがある。そのコピーが素晴らしければ、ウィスキーがまた五感に沁み亘る。でも、「山崎シェリカスク2013」、1本100ポンドとは庶民には手が出ない。普通の山粼でも、お小遣いに響く金額であり、当方は、主にニッカの角である。これが若いころからの友人である。そういえば、酒飲みの伯父は、いつもトリスであった。トリスをチビチビやりながら、甥っ子相手に何を言っていたか。戦争体験の話が多かったか、人間らしい生活に戻ったからこそ、体験を話す気になったのか。琥珀色の友人は、我々を一時、人間らしい時間に戻してくれる。できれは、100ポンドの香りも良いが、サントリーホワイトで「ン〜・ダイナマイト」でも、良い友達づきあい出来れば良いであろう。
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO79682000U4A111C1MM8000/