「言う莫かれ」

(日経「春秋」2012/10/12付) 「言葉なんかおぼえるんじゃなかった/言葉のない世界/意味が意味にならない世界に生きてたら/どんなによかったか」、田村隆一の詩「帰途」の冒頭。言葉なんか与えるんじゃなかった――。と考えているのは中国の指導部かもしれない。来月の共産党大会を控えて言論統制をいちだんと強め、中国版ツイッター「微博」などの検索制限に余念がないらしい。そんな現代中国に生きる作家の莫言氏が、今年のノーベル文学賞に輝いた。政治色のうすい人だから当局も歓迎のようだが、今回の授賞には、この大国の言論状況を改めてほしいという願いもこめられているかもしれない。ちなみに莫言というのはペンネームで「言う莫(な)かれ」に由来するという。意味深長な名ではある。
(JN)一党支配国家の自由は、あくまで統制された中での自由である。現在の中国、この一党支配を守るために共産党は必死である。でもこれは共産主義の本来の趣旨から反しているのではないか。資産や生産手段を共有するはずが、共産党の幹部党員のための主義、実は中国の長い歴史における皇帝を中心とした体制と変わりないのではないか。言う莫れ。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO47165750S2A011C1MM8000/