「二度と人員整理をしない」という不文律

(日経「春秋」2012/9/15付)100年前の9月15日、東京・隅田川の際に18歳の職人が町工場とも呼べない小さな店を構えた。6畳と土間だけの、細かい金物細工をする錺屋(かざりや)である。まず、ズボンのベルトを穴なしで長短自在にとめるバックルで当てる。映画の一場面がヒントになったという。次の大ヒットが「繰り出し鉛筆」、のちのシャープペンシルだ。この時期を振り返るシャープの創業者、早川徳次の「私の履歴書」を読むと本田宗一郎と重なる。50年の不況では580人いた社員のうち210人を削減した。早川が倒産まで覚悟したこの不況を機に、社内には「二度と人員整理をしない」という不文律ができたという。いま、不文律を破って生き延びねばならぬ苦境とシャープは向き合う。「20世紀に、置いてゆくもの。21世紀に、持ってゆくもの」。しゃれたコピーで液晶テレビを宣伝したのは世紀の変わりめだった。101年めに持ってゆくものを峻別(しゅんべつ)するのはつらい作業だろうが、仕事を面白がり、夢中になる心は失わずに、と願う。
(JN)人は資本では作れない。未来へ持っていくのは仲間であり、過去へは不毛な憎しみ合いを残していきたい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO46167180V10C12A9MM8000/