新米もまだ艸(くさ)の実の匂ひかな

(朝日「天声人語」2012年9月9日(日)付) お米の力というものを一番感じさせるのは、おにぎりだろうか。関東大震災のとき炊き出し組の一員に加わった作家の幸田文は、手の皮のひりひりする熱いご飯を、休む暇なく次から次へ握ったそうだ。何の愛想もない塩むすびだったに違いない。だが、あのまるい三角形には、受難の人を物言わず励ます力感と温かみがある。日本人と米の、3千年という結びつきゆえだろう。今年も新米が出回り始めた。炊きたての新米に豪華な総菜はいらない。原発禍の福島県でも収穫が始まり、全袋検査で安全を確かめて出荷される。手塩にかけてきた農家は「放射性物質が出ないよう願いを込めて刈り取った」と言う。〈新米もまだ艸(くさ)の実の匂ひかな〉蕪村。イネ科の一年草の実ながら、この恵みなしに日本の歴史も文化もなかった。自由化が言われるが、経済原則だけで米作りを追いつめたくはない。夏の青田、秋には黄金(こがね)の穂波。心の風景が、ゆたかな国土の上にある。
(JN)日本のお米は最高である。炊いただけ、おかずがなくともそのままでもいただける。とてもおいしい。お米からできる、日本酒もお酒だけで何もなくともイケる。この豊かな国土に感謝し、それを守っていかねばならない。
http://www.asahi.com/paper/column20120909.html