人は死んでしまうが、死なない人もいるのだ

  • (日経/春秋/2012/5/31付)一昨日100歳で死去した映画監督の新藤兼人さんには、老いることの意味を教えられ、考えさせられ続けた。「老人の武器は挫折です」。「妄執、欲望、後悔でいら立つばかり。死に近づく恐怖や社会から疎んじられている悔しさが渦巻いている」。「私は念仏は唱えません。自分だけを恃(たの)んで生きています」。戦争で海軍に召集され、たまたま生き残ったことに始まる反戦の思いを抱き続け、65年ののち作品にまとめ上げ、それがその年一番の映画と評価される。こんなふうに老いていった人をほかに知らない。最愛の妻、乙羽信子の思い出を本紙「私の履歴書」につづったとき、最後にこう結んでいる。「人は死んでしまうが、死なない人もいるのだ」。この一言、そのまま新藤さんにささげる。

=>(JN)新藤監督、長きに亘りありがとうございました。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO42032310R30C12A5MM8000/