松井秀喜選手、浮かぶのは矜恃の一語

(日経「春秋」2012/12/29付) 「ピッチャーというのは、ノーマルな人間は大成しませんね」。長嶋茂雄さん「われわれ(打者)は逆に、ノーマルじゃないと仕事ができないんです。相手があって商売が始まりますから」。松井秀喜選手、その姿勢は引退を明かした記者会見までまったくぶれなかった。「長嶋監督と二人で素振りした時間」を野球人生いちばんの思い出にあげたが、学んだのはバットの振り方だけではなかったのだ。ノーマルすぎるがゆえに痛々しく見えることも、最近は多かった。2年前の9月8日、スタンドに赴いた。エンゼルスのMATSUIは八回に代打で登場、と思う間もなく、相手投手が左腕に代わると「代打の代打」を送られた。わずか10メートルほど、打席へと歩んで引き返すうつむきがちの後ろ姿が目に焼きついている。その屈辱と引退とを二重写しにすると、浮かぶのは矜恃(きょうじ)の一語である。
(JN) 松井選手、ありがとうございました。寡黙に淡々と、打球を遠くへ飛ばすその姿、堂々としたゴジラであった。長嶋という人はとてもノーマルとは思えない人である。その人が打者はノーマルじゃないと仕事ができないと言う、この不可思議。松井という人もノーマルではないであろうが、長嶋に比せばそれは非常にノーマルであり、矜持を持っているゆえに、長嶋のような華々しい引退ではなく、静かなるを選んだのであろう。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO50144130Z21C12A2MM8000/