その瞬間にいつ出くわすかもしれないのがW杯の楽しさでもある

(日経「春秋」2014/6/20付) 4年前のサッカー・ワールドカップ、今も強烈に記憶に残る一節、「スペイン―ドイツの準決勝で、スペインのプジョルがヘディングシュートを決めた瞬間、なぜか涙があふれました」と元東大総長の蓮實重彦さん。スペインはこの1点で決勝に進み、初優勝した。チームを精神的に支えていたのが、プジョルという選手である。今回、スペインは連敗して1次リーグ敗退が決まった。プジョルは引退し、もういない。闘将とよくいうが、猛将がふさわしい。優男ふうが目立つスペイン選手のなかにあって、ひとり仲間を叱りつけて鼓舞する獣性が目に焼きついている。「サッカーには、選手や観客の国籍とは無縁に、見る者すべてを感動させてくれる瞬間がある」。スペインにもう一度を期待できないのは残念だが、その瞬間にいつ出くわすかもしれないのがW杯の楽しさでもある。ただし国籍不問。それを忘れていると、不思議な体験をし損なう。
(JN) ワールドカップで今でも脳裏に残っているのが、ボンバーのゲルト・ミューラーの1974年の西ドイツ・ワールドカップ勝戦で、オランダのゴールに振り向きざまにけり込んだシュートである。ゴール前で球を持ったら、どんなかっこであろうと、シュートするの姿勢、正に爆撃機であった。決してかっこよくないが、押し込んでいく。日本のチームに欠けているものである。その昔、釜本がいたが、その釜本の後ににも先にも、もうそういった人が出てこない。やはり、野獣性であろうか、その野獣性が仲間を鼓舞し、球を呼び寄せるのである。そういった選手に画面を通してであるが、会える可能性があるのがワールドカップである。日本チームの応援で一喜一憂するのも良いが、それよりも世界の一流を楽しもう。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO73022310Q4A620C1MM8000/