「志は高かったんですけどね」

(日経「春秋2013/10/6付) 甲子園の高校野球であった話だという。主将も務める4番打者が初回に先制のタイムリーヒットを放った。ところが、攻撃が終わっても彼一人だけが頭を抱えてベンチに座ったまま、守備につこうとしない。目を真っ赤にし、「オレはダメです」とつぶやいたともいう。ヒットを打っても、その内容が気に食わないとこうなってしまうことがかつてもあった。広島の前田智徳外野手(42)は高校生にしてすでに求道者の趣であった。落合やイチロー、松井といった強打者が天才と認めた資質。絶頂期を襲ったアキレス腱(けん)断裂をはじめケガだらけの選手生活。彼にして才能や努力に十分見合う結果が伴わなかったことに、人生の難儀を知るからだろうか。目指す頂を想像することさえできぬ身も、そういう話にひかれた。引退の記者会見では、そこだけ少し早口に言った。「志は高かったんですけどね」。その心構えがひりひりするほど伝わってくるユニホーム姿だった。
(JN) 前田智徳選手、ご苦労様でありました。我が儘なジャイアンツファンとしては、欲しかった選手の一人でした。天才も怪我には勝てない、もっと自分の身体を大切に鍛えることができなかったのか。バランスを取ることは難しいのである。それぞれのプロの世界でのバランスを取りながら、自分を鍛えていくことが大事である。それは心もである。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60713980W3A001C1MM8000/